時間に余裕があったので
歩いて目的地へ行ってもいいかなという考えが頭を過ぎった。
だけれども、駅の構内から出て空を仰ぐと
降り注ぐ日差しがあまりにも強く真っ直ぐで、キラキラと眩しすぎたものだから、
私は過ぎったそれを打ち消しながらバス停へと向かった。
バス停のベンチには、ジュースの缶を握った姉妹らしき少女たちが仲良く座っていた。
350mlの缶が通常よりも大きく見える様を微笑ましく思いながら、
私はその子たちの隣に静かに腰を下ろして鞄の中から読みかけの本を取り出した。
パラパラパラとページを流してみたけれど、
日陰とは言え、じわっと汗が滲むような日は、
活字の奥の世界へなかなかダイヴできずにいた。
時折、ビルの隙間を抜けるようにして流れてくる風を心地よいと思う自分に複雑な思いを抱きつつ本をバッグの中にしまった。
随分と大人しい子どもたちだなと、視線を隣の姉妹に向けると、
何やら2人でコソコソッと言葉を交わしてはジュースの缶を覗き込んだり、
缶に耳を付けたりしている。
何だろう、どうしたのだろう、何があるのだろう。
私の中にある妙な好奇心がいつものようにソワソワし始めた。
きっとまた、好奇心が体から溢れてしまっていたのだと思う。
姉妹のお姉ちゃんと目が合ってしまった。
大人げない自分を隠そうとするや否や、お姉ちゃんが私に言った。
「この中からカワイイ音がするの」と。
もう一度、2人が手にしているジュースの缶を見ると、よく見かける炭酸飲料だった。
「音?」
そう返す私に、少しだけ緊張気味の妹が「聞く?」と缶を差し出した。
私も彼女たちがしていたようにジュースの缶に耳を付けてみる。
確かに微かな音ではあったけれど、炭酸がパチパチと弾ける音が缶越しに耳に届いた。
「カワイイ音でしょ」という妹に「カワイイ音だね」と返すと、
とても満足気に笑って再びお姉ちゃんと共に缶の中を覗き込むことに夢中になっていた。
たったそれだけのことだったのだけれども、「何だかいいな、そういうの。」と思った。
間違いなく彼女たちの影響だと思う。
その日の帰り道、私は近所の自動販売機で滅多に買わない炭酸飲料を買って帰った。
お風呂上りにそれを透明のグラスに注いで、
パチパチッと弾けるカワイイ音に耳を澄ませながら
シュワシュワと消えゆく泡を眺めた。
あ、大人なんだからシャンパンでも良かったんじゃないかしら。
そのような事も思いつつ「何だかいいな、こういうの。」と思った。