友人が旅先のフランスから写真を送ってくれた。
懐かしい街並みが切り取られたそれを懐かしい気持ちで眺める。
変わったところ、全く変わらないところが混在しており、不思議な気分になった。
写真の最後には友人の姿があったのだけれども、
風邪気味だったのか、花粉避けだったのかマスク姿の写真だった。
フランスでマスク……。
私には少し苦い思い出があったことを思い出した。
フランスに居た頃、
気温の変化に体がついて行かなくなり風邪をひいたことがあった。
空気の質感が日本とは異なるため、
どうしても喉の違和感を抑えることが出来なかった私は、
日本から持ち込んでいたマスクをして過ごすことにした。
日本でマスクをすることは、ほとんど無かったのだけれども、
念の為にと持ち込んでおいて良かったと、大きなマスクの箱を見て思った。
使い慣れていないマスクだったけれど、
付けている違和感を忘れるくらい顔に馴染んだこともあり、
私はマスクをしたまま買い物へと出かけた。
その時である。
すれ違うフランスの人々から向けられる眼差しに違和感を覚えたのは。
スーパーへ入って買い物をしているときも妙な視線を感じて
なかなか買い物に集中できずにいた。
そして、買い物客の中に居た親子連れの母親が小さな我が子を私から遠ざけた姿を見て、
何か妙な誤解を招いているのだろうと確信した。
私は直ぐに家に戻り、知人に状況を説明し、
フランスでのマスクの立ち位置というものを知ることとなった。
フランスでマスクは、一般の人が気軽に使うアイテムではなく、
医師が手術の時に使用したり、
様々な感染症から身を守るために使うためのものという認識なのだそう。
だから、私のように一般人がマスクをして外出すると、
重病人扱いをされてしまったり、
巷に何か危険な感染症が広がっているのかしら?という不安を抱かせてしまうのだそう。
スーパーで我が子を私から遠ざけた母親は、
自分の子どもが感染しないように行動したのだと腑に落ちた。
日本では花粉が飛び交う季節は特にマスク使用者が増えるけれど、
マスクを使用しているからと言って、その人を避けることはない。
花粉シーズン以外でマスクをしている人を見かければ、
「風邪なのかしら、お大事に。」と思う方がほとんどだろう。
国が違えばお馴染みの光景がこれほどまでに一変するようだ。
友人にマスクをしていて妙なことは起きなかったかと尋ねてみると、
そう言えば、たっぷりと席が空いているレストランなのに、
予約でいっぱいだと言って断られるというようなことが3回ほど続いたのだそう。
「あ、それ、マスクかも。」と、
今度は私がフランスのマスク事情を友人に伝えることとなった。
いつの日か、日本のマスクがフランスに広がる日が来るのだろうか。
静かにマスクの行く末を見守りたいと思う。