ある和菓子屋に入ったときのこと。
「もう葉月だなんて、早いですね」と、先に店内にいらした老夫婦の会話が聞こえてきた。
時々、このような場面に遭遇することがあるけれど、
その日常会話の中で使われていた和風月名は、
古のものを大切にしているとか、お作法だとか、そういった類の物言いではなく、
どれも、使い慣れているものとして口から出ているのだと分かる言葉をしていた。
普段から使っている言葉がその人に馴染んでいくのか、
言葉が使い手を変えていくのか。
きっと、両方あるのだろうけれど、
言葉にも、その人らしさは十分に表れるものだと感じた光景だった。
今月は「葉月(はづき)」と呼ばれる月である。
「葉月(はづき)」の語源、由来は何ぞや?と思ったことがあったのだけれども、
未だに正確な語源、由来は分かっていないようで、
巷で見聞きするものは全て、先人たちの想いを推測した、ひとつの説だ。
その中でも多く語られているものは、
青々としていた葉が黄色く色づく頃だから「はづき」、
その色付いた葉が落ち始める頃だから「葉落ち月」と言われるうちに、
短縮されるようになり、「葉月(はづき)」に落ち着いたというもの。
他にも雁(がん/かり)が飛んで来る初雁の頃ということで「初来」、
稲穂が実る頃だから「穂張り月(ほはりづき)」といった言葉が
後に「はづき」になったのでは、と推測されている。
夏真っ只中であるにも関わらず語源や由来に秋の空気が感じられるのは、
葉月(はづき)は、旧暦の8月のことを指しており、
今で言うところの8月下旬辺りから10月頃のことを表しているからだ。
旧暦の季節感をまとった言葉であるため、
葉月(はづき)は秋を表す季語としても使われている。
正確なことは何一つとして分かっていないと言われているけれど、
日本人が生み出した和風月名の葉月(はづき)なのだから、
これらの推測は、当たらずと雖も遠からずなのではないかと、私は思っている。
一方、英語名のAugustは、ローマ皇帝Augustus(アウグストゥス)の名に由来している。
彼は、ユリウス暦の運用を修正するとともに8月の名称を自分の名に、
そして、それまで30日間だった8月の日数を31日に変更している。
一説によると、8月はアウグストゥス本人の誕生月だったそうで、
自分の誕生月を少しでも長く祝いたかったから31日にしたのではないか。
と言われたりもしているという。
もしそれが本当であるならば、職権乱用、公私混同という言葉がチラつくのだけれど、
私たちの祖先たちが長閑な風景を眺めながら、
どの景色を切り取ろうかとしていた時、
権力を誇示しなくてはいけない時代だった場所もある、ということなのだろう。
どちらが良い悪いではないのだけれど、
長閑な風景や素敵な景色を様々な角度から切り取り、
言葉の中に落とし込んでくれた先人たちに
私はいつも、ひと言「お見事!!」と伝えたいような気分になるのだ。
残暑厳しい日が続いておりますが、
和風月名を目にする機会がありましたら、
今回のお話しをほんの少しだけ、思い出していただけましたら幸いです。