今年いただいた暑中見舞いのポストカードの中に、
私の遠い記憶を優しく刺激する1枚があった。
ポストカードの紙面いっぱいに広げられた白い星砂の上には、
貝殻界のモデルたちがステキなフォルムや柄を見せつけていた。
いや、正しくは、素敵な貝殻がレイアウトされた夏らしい写真だ。
星砂を、こうして眺めたのはいつぶりだろう。
幼き頃、星砂が入った小瓶をとても大切にしていたことがあった。
手のひらサイズの小瓶の中にはロイヤルブルーの砂と、白い星砂、
そして、あれは随分と小ぶりだったけれど桜貝だろうか。
薄桃色のハマグリのような形をした貝殻が1枚入っていた。
ロイヤルブルーの砂のおかげで星砂の形ひとつひとつがとても綺麗に見えたし、
色砂の青と星砂の白のコントラストが
夜空に浮かぶ天の川の様にも見えて飽きもせずに眺めていた記憶がある。
しかし、素敵なものたちが小瓶に無理やり閉じ込められているようにも見え、
次第に小瓶越しに眺めていることに、もどかしさを感じるようになる。
彼らを自由にしてあげたかったのか、
小瓶から出せば、違う感動が味わえるのではという期待に胸を膨らませたのか、
もう、その辺りの記憶は無いのだけれど
私は意を決して小瓶に差し込まれているコルク栓を丁寧に引き抜き、
白い紙の上にそっと広げた。
しかし、私が広げたのは白い紙の上。
星砂の良さはぼやけ、色砂への感動も何となく薄れてしまうことを知ることとなった。
そして、その中に佇む桜貝に至っては、存在すら忘れてしまいそうだった。
その後、私はそれらを再び小瓶の中に戻し入れ、しっかりとコルクで栓をした。
幼き私は、嬉しさと感動に混じる現実を覗き見たのかもしれない。
星砂の多くは、南国の海で手に入れることができると言われており、
沖縄や、その他の海近くの土産物店、水族館などで目にすることが多い。
鋭い角のようなものが星に見えることから星砂と呼ばれているけれど、
角の先が丸くなっているものは太陽砂と呼ばれている。
そして、星砂や太陽砂の正体は有孔虫(ゆうこうちゅう)と呼ばれている小さな生物の殻だ。
「殻」と言うと貝殻のような気持ちで眺めてしまうけれど、
もっと分かりやすく言うと、海中生物の死骸。
事実は時に残酷だ。
それでも、そのフォルムの可愛さと、
星の砂を持っていると幸せが舞い込むという話を聞くと、心がぽわっと温かくなるのだから、
人は勝手だなとも思ったりもする。
あの頃、大切に眺めていた星砂の小瓶はどこへいってしまったのだろうか。
幼き私が無事に大人になり、今、こうして彼らの話をしている。
そう思うと、十分すぎるくらいのハッピーを運んできてくれたように思う。
彼らにお礼を伝える術はないけれど、
その代わりに、彼らの動く姿をご紹介させていただこうと思う。
動く彼らにも少しだけ興味をもっていただけましたら幸いです。
※音量、その他、閲覧環境にご注意くださいませ。
関連リンク:新江ノ島水族館