幸せのレシピ集

cawaiiとみんなでつくる幸せのレシピ集。皆様の毎日に幸せや歓びや感動が溢れますように。

黒糖とコーヒーと、湯気で曇ったメガネの思い出。

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夜風が冷たさを増してきている。

大判のストールに包まって腕を擦りながら見上げた夜空の風景が

少しずつ秋の空へと変わりつつあり、

しばらく夜空を見上げていなかったことに気が付いた。

「頑張るのもいいけれど、

一杯のコーヒーを丁寧に味わう時間と心の余裕くらい作れないと、

ここぞという時に踏ん張りが効かないものよ」

と、以前、仕事をご一緒した方が、コーヒーカップを両手で包み込むように握り、

カップの中を覗き込みながら仰っていた。

覗き込んでいた顔を上げたとき、メガネが湯気で薄っすらと曇っていて、

「漫画みたいになってますよ」と笑い合ったことを思い出した。

ある時、彼女がよく足を運んでいるという

隠れ家のようなコーヒーショップに連れて行っていただいたことがあった。

大切にしている場所だということが伝わってきたこともあり、

私は、コーヒーが苦手だと言い出すタイミングを逃してしまった。

運ばれてきたコーヒーを恐る恐る覗き込みつつ、

私にとっての助け舟でもあるお砂糖やミルクを探した。

ここのコーヒーは、お砂糖もミルクも入れずに、

ソーサ―に添えてある黒糖を口の中に入れ、

それをコーヒーで溶かしながら飲むのだと聞かされた時は不安になったけれど、

黒糖の優しい甘さとコーヒーのほろ苦さが口の中で溶け合い、混ざり合って温かい味がした。

美味しかったのだ、とても。

その後、珍しく自分の為にコーヒー豆と黒糖を買い込み、

コーヒーカップに黒糖をちゃぽんと入れて飲んでみた。

でも、違った。

黒糖の塊は直接口の中に入れ、

急がずゆっくりとコーヒーで溶かしながら飲んでこその美味しさだった。

あの時も、やっぱり彼女はメガネを曇らせていた。

そのようなことを思い出したものだから、部屋に入り珍しく自分の為にコーヒーを淹れてみた。

もちろん、黒糖の塊を小皿で添えて。

あの時お店で出てきた黒糖よりも随分と大きな黒糖を選ぶのはご愛敬。

まだあるのだろうか、あのお店。

そして、彼女は今もメガネを湯気で曇らせながら、

一杯のコーヒーを丁寧に味わっているのだろうか。

変わらずにいて欲しい、いや、きっと変わらずいるのだろうな。

あの時の彼女の言葉や、湯気で曇ったメガネを思い出すと、

不思議と飲みたくなる黒糖コーヒーだ。

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