歩いてすぐの距離ではあったけれど、
久しぶりにバスに乗ってみるのもいいかな。そう思って、バス乗り場のベンチに腰を下ろした。
背後にあった時刻表を、体を捩じらせながら確認すると10分少々の待ち時間だった。
10分少々もあれば、目的地のすぐそばまで行けるのだけれども、
その日は陽射しが柔らかくてベンチから動く気にはなれなかった。
行き交う人たちを眺めつつ空いているベンチ横に視線を落とすと、
赤や黄色に色づいた落ち葉が落ちていた。
座る人が掃うだろうと思ったけれど手持ち無沙汰も手伝ってか、
気付いた時には落ち葉に手を伸ばしかけている自分が居た。
そのまま払い落とすには惜しい気がして、何となく、
拾いあげた落ち葉をベンチの空いたスペースに、顔のように並べてみた。
落ち葉でできた笑顔に陽射しが当たって、我ながらいい出来栄えだ!と心の中で自画自賛する。
そろそろベンチに座る人がいるかもしれないから、さり気無く落ち葉を掃い落そう。
そう思ったとき、ランドセルを背負った子どもたちがやってきた。
掃い落し損ねた私は、何ごとも無かったかのように目線を遠くに向けた。
すると、一人の女の子が「これ笑ってる」と葉っぱの顔に気付いたのだ。
あ……、バレた。そう思った。
それでも知らん顔をしていると、
誰が作ったのかな?妖精じゃない?風の妖精。葉っぱの妖精じゃない?
あのハトが作ったのかな?とベンチのそばにいるハトを指さすなどしていた。
ここまで想像が膨らんだ子どもたちの前に「ワタシです」と名乗り出るのは野暮だし、
不審者扱いされるのも困ると思い、遠くを見ながら会話だけ聞かせていただくことにした。
すると、茶色のランドセルが似合う女の子が、私の太ももをちょんちょんと可愛らし手でノックした。
ん?
出来るだけ冷静に、大人の空気を出しながら彼らの方を向いた。
「この葉っぱのお顔、いつからありましたか?」
「ん~、いつからだろう?」そう答えた。
すると、「やっぱり妖精じゃない?」とヒソヒソ話が始まった。
ヒソヒソ話が一段落すると、「これ、誰かが座ったら壊れちゃうから、みんなで持って帰ろう。」
そう言って、子どもたちは、葉っぱを分け合って握りしめていた。
きっと、家へ帰りついたら妖精が作った顔があったというエピソードを話しながら、
パパやママに、あの落ち葉を見せるに違いない。
あんな風に大切に扱われたら、
夢の中で落ち葉の妖精たちに会えるんじゃないかしら、と思ったりなんかして。
“普段はしないこと”をしてみると、ココロにあたたかい風が吹くようだ。