生憎のお天気で予定していたお出かけが延期になった。
ベランダから腕を伸ばして手のひらで受け止めた雨は、雪になりかけの状態の雨粒で、
私の体温で溶かされる前にシャリッと音がしそうな風貌を一瞬だけ見せてくれた。
真っ白な空から儚く降る、雪になりきれない雨、それとも雨になりきれない雪だろうか。
どう呼ぶのか正解かしらと思った自分を、なんて無粋なのだろうと思いながら部屋へ思った。
なりきれないのではなく「どちらの顔も持っている」だけのことだ。
そして、その日の私には、目の前のそれは雪になりかけの雨に見えた。
あまりにも真っ白な空だったものだから、
景色に、ぽわっと色を添えたくて真っ白なマグカップにマロウブルーを淹れることにした。
ヨーロッパでマロウブルーは、“夜明けのハーブティー”や“魔法のハーブティー”などと呼ばれているのだけれど、
そう呼ばれる所以は、淹れる度に色が変わり、淹れた後もカップの中でその色が変化する不思議なお茶だからだ。
お湯を注ぎ始めたときは、夜空のような、ブルーサファイアのような、深い青色が広がるのだけれど、
時間が経つにつれて、その青は赤みを帯びて澄んだ紫色に変化する。
色の変化が味に影響することはないため、この色の変化を味と共に楽しむのだけれど、
ひと通りの色の変化を楽しんだら、私はほんの少しだけレモン果汁を加える。
優雅にスライスレモンを浮かべて、などと言いたいところなのだけれど、ズボラで申し訳ない。
私は専ら果汁タイプだ。
しかし、マロウブルーは、そのような私のことも決して裏切らない。
レモン果汁を加えた瞬間、カップの中で淡く澄んだ桜色の世界を見せてくれるのだ。
この色の変化を左右するのは、使うお湯の成分や温度、気温や湿度といった天候、
淹れる人のタイミングなど様々で、カップの中に表れる世界は一期一会だ。
少々紛らわしいけれど、マロウブルーというハーブティーは、
“ブルーマロー”というハーブの花から作られている。
茶葉の大半を花が占めていることもあり、茶葉の状態も華やかだ。
そして、ヨーロッパでは、このハーブを古より薬として使っているのだけれど、
粘膜を保護する効果があることから、咽頭炎、気管支炎や風邪、咳や痰、消化器系の不調、
今では花粉症の症状緩和ケアや、タバコを嗜む方の喉ケアと幅広い。
薬と言えば、スイーツとしての印象が強いマシュマロも薬として使われていたけれど、
マシュマロは、この「ブルーマロー」の根を原料にして作られており、
マシュマロのマロは、「ブルーマロー」からとって名付けられたとも。
ハーブティーの薬効を暮らしに取り入れている方は、
風邪のひき始めにマロウブルーを召し上がるという方も多いのだけれども、
私は薬効よりも色の変化を楽しんでいる。
窓越しに微かに聞こえる優しい雨音をBGMに、
のぞき込んだカップの中に広がるは色の美術館。
外は生憎のお天気だったけれど、一杯のお茶をゆっくりと味わうのもいいものだ。
※一般的にマロウブルー、マロウティーと呼ばれているハーブティーは、ブルーマローという品種から作られていることが多いのですが、コモンマロウと呼ばれる植物から作られたハーブティーをブルーマロー、マロウティーと呼んでいることもあります。この辺りの表記は曖昧なことが多く、私自身は、未だにブルーマローとコモンマローの詳細を咀嚼しきれておりません。今回登場したものは、巷で多く扱われているブルーマローから作られたマロウブルー、マロウティーです。
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