喉が痛い……。
干上がった地面からの叫びのような喉奥の感覚と共に、
PCのキーボード上に突っ伏した状態で眠ってしまっていたことに気が付き顔を上げた。
少しだけ冷まそうと、口を付けずに置いてあったハーブティーは、
いつの間にかアイスハーブティーになっていた。
レンジで軽く温め直したそれを、ひと口、またひと口と口に運びながらPC前に戻った。
画面上は書きかけだったはずの原稿の姿はなく、
代わりに、大量のクエスチョンマークで埋め尽くされていた。
いくつ削除しても無くなる気配のない想像以上に並んだそれらを、
ミントティー片手に淡々と消す作業がしばらく続いた。
様々なシーンで使われているクエスチョンマーク“?”は、疑問符と呼ばれ、
今でこそ日本語の中の記号のひとつとして当たり前のように使われているけれど、もとは英語のマークだ。
「クエスチョンマーク」、「疑問符」という呼び名以外にも「はてな」などとも呼ばれ、
疑問を表すときに使われているけれど、どうしてこのマークが疑問を表すことになったのか。
私は、そのような疑問すら持たぬまま使っていたのだけれど、
あるとき、このような出来事があった。
外国人の知人の前で日本語メモを取っていると、
クエスチョンマークを記した私のメモに視線を落としながら、ミャウミャウと猫の鳴き真似をしたのだ。
話の内容にも私のメモにも全く繋がらない突拍子もない知人の行動に、
私は何が起きたのか分からず、リアクションに戸惑った。
そのような私を見た知人は、今度は私を見て笑い、再び猫の鳴き真似をしたのだ。
私が、その言動を理解できていないことに気付いた知人は、
とても分かりやすい英語と筆記、ジェスチャーを交えながら、このような話をしてくれた。
ラテン語で疑問を意味する“quaestio”という言葉があること。
そのスペルの最初と最後の文字である“q”と“o”を取って縦に並べたものが変化し、
現在のクエスチョンマーク“?”が誕生したと言われているということ。
そして、更に続けた。
これが一般的だと言われているのだけれど、他にもクエスチョンマークの誕生話があるのだと。
猫が不思議に思うようなことに遭遇したときや、理解できないものを前にしたときに、
尻尾をピーンと立てて揺らすことがあるそうなのだけれど、
そのときの尻尾と、お尻の穴を後ろから見た様子をデザインしたものがクエスチョンマークになったと言うのだ。
知人は、この説の方がハッピーな気持ちになるから好きだと言い、
私が手帳にクエスチョンマークを記したため効果音として猫の鳴き声を添えたと言った。
そうしたら、柊希が猫みたいに不思議そうな顔をするものだから、
あなたにも鳴き声を添えたのよ、と。
場を和ませるような、ありがたい状態だったようなのだけれども、
その話を知らなければ正直、何ごとか?この人は大丈夫か?と思ってしまうではないか。
内心そう思いながらサンキューと、愛想笑いを返した記憶がある。
画面を埋め尽くしていたクエスチョンマークが消え、
キレイになった真っ白なそこに「?」をひとつ入力してふと思う。
クエスチョンマークとエクスクラメーションマークを並べたこれ、「!?」。
公文などで使われる場合は、この並び「!?」が正しいのだけれど、
「?!」「!?」の2種類が使われているように思う。
使い手の気持ちを想像するに、驚きを強く表現したい場合は「!?」を、
疑問の気持ちを強く表現したい場合は「?!」を選んでいるのかしらと勝手に思っている。
自分以外の方が使う分には、その辺りはあまり気にならないのだけれど、
私自身は仕事柄だろうか、これを使う際、「!?」この順番の呪縛から逃れられずにいる。
気持ちが通じればいいのだけれど。
その日は、そのようなところに着地し気持ちも新たに仕事に戻った。