久しぶりに歩いた道で、ふわり流れてきた風から夏の匂いがした。
匂いにつられて、辺りを見回してみたけれど、夏の匂いを感じられたのは、その一度きり。
すぐに、いつもの街の匂いと音が広がった。
あの一瞬だけ、未来を先取りしてしまったのではないだろうか。
そのような妄想を広げつつ、風にそよぐ葉桜でできた木陰道を歩いた。
桜と言えば、100年ぶりに桜の新種発見か!?という期待が寄せられている桜がある。
発見したのは、桜の研究や森林環境教育の研究などを行う機関の、
樹木学、植物分類学を専門にしている勝木さんという研究者の方。
期待が寄せられている桜は、彼が紀伊半島南部で行った調査により発見した野生の桜なのだそう。
この桜は、奈良県、和歌山県、三重県で見つかり、その近くには熊野川が流れていたからだろうか、
名は「クマノザクラ」と名付けられたとのこと。
日本国内に自生する野生の桜は9種類あるそうなので、
このクマノザクラが新種として発表されると10種類目となり、
100年前に発見されたオオシマザクラ以来の発見となるという。
このクマノザクラは、一般的な桜よりも少々開花が早く小ぶりという特徴があるのだけれど、
見た目がヤマザクラと似ており見分けが難しいため、
クマノザクラが咲く地域の方々は、桜は1年に2度咲くものだと言う方もいらっしゃるのだそう。
年に2回も桜を愛でられるなんて、どのような気分なのだろうかと思ったけれど、
きっと、地元の方々にとっては慣れ親しんでいる当たり前の、美しい光景なのだろう。
新種の桜が発見されたとなれば、
クマザクラの名所と呼ばれる新たな観光地も増えるのだろうと容易に思ったけれど、
これが、なかなか難しいようだ。
クマザクラが自生している辺りには、クマザクラよりも早く、大きく成長するような木々が多いらしく、
すぐにでも保護対策を始めなければ、周りの植物がクマザクラ以上に成長して日光を遮り、
クマノザクラの成長が止まり、その美しい姿を消してしまうことも考えられるのだとか。
私はクマノザクラのことを知るのが遅かったため、
今年のクマノザクラを目にすることはできなかったけれど、
鑑賞用に向いているらしい、その姿をいつか愛でてみたいと思っている。
幻想的な桜の景色は年に1度だけのものだと思っていたけれど、
“日本の桜は年に2度楽しめる”という常識が定着する日が来るのかもしれない。
クマノザクラの名を見聞きした際には、ちらりと思い出していただけましたら幸いです。
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