箱を開けた瞬間、甘い香りに包み込まれたような気分になった。
時々口にするドーナツの美味しいこと。
食材や成分には割と拘る方ではあるのだけれど、全てはバランスだと思っていることもあり、
ストイックになり過ぎず、目の前のものは思いっきり楽しむ主義だ。
カラフルなドーナツのキュートさにも惹かれるのだけれど、甘味キャパシティーが大きくない私は、
最後のひと口まで幸せを感じられる、一番シンプルなひとつを選んでお皿に乗せた。
その時々の自分が、本当に欲しているものを丁寧に選ぶことの楽しさを知ってしまうと、
目の前に現れる選択肢のひとつひとつが、貴重なものに感じられたりもする。
そして、普段、自分の意志で選んでいるように見えて、
実は、過去の趣味嗜好そのままを、癖や習慣で選んでいることにも気付くこともある。
人は面白い、そう思いながらフォークで切り分けたドーナツを口に運んだ。
ドーナツと言っても、穴が開いているもの、丸いもの、小判型のもの、棒状のもの、
細い棒を2本捻じったようなものなど、様々な形状のものがある。
だけれども、どういうわけかドーナツと言えば、中央に穴が開いているものという意識が強い。
ドーナツ発祥の地はオランダで、もともとは、生地の中央にクルミを乗せて揚げたもので
穴など開いていなかったというのにだ。
どのような経緯で、ドーナツに穴が開けられるようになったのか。
それは、このドーナツレシピがアメリカへと渡り、再現される際に、たまたまクルミが手に入らなかったため、
クルミを乗せるはずの中央に穴を開けて揚げたことが、穴あきドーナツの原型だと言われているのだそう。
ただ、ドーナツの穴に関しては、様々な説があると言われている。
私の記憶には、その説は無いのではないかしら?と思ってしまうような説しか残っていないけれど、
そのひとつは、インディアンの放った矢が、
ドーナツ生地の中央を射抜いた状態で油の中に落ち、中央に穴が開いてしまったという説。
もうひとつは、ある船乗りが、
船のハンドルである操舵輪にドーナツを引っ掛けるために中央に穴を開けたという説だ。
久しぶりに、これらの説を脳内で映像化し、「……無いだろう」と思いかけて止めた。
そして、“真実”や“きっかけ”の全てが、「もっともだ」と思えるようなことであるとは限らないのだからと思い直した。
インディアンの矢が飛んでくるシチュエーションとは……。
操舵輪をにドーナツを引っ掛けたところで、舵を切ればそのドーナツは……。
愉快な謎は深まるばかりだ。
もちろん、今となっては真実を知る術はないため、純粋に美味しいドーナツを味わうだけで十分なのだけれど。
ドーナツを召し上がる機会がありましたら、
今回のお話をチラリと思い出していただけましたら幸いです。
画像をお借りしています:https://jp.pinterest.com/