アイスを美味しいと感じられる季節になってきた。
出先で手にしたソフトクリームを口にしながら思う。
その日は生憎、雨がしとしとと降っていたのだけれど、外を行き交う、カラフルな傘を眺めながら、味わった。
「硬―い、歯が欠ける」
少し離れたテーブル席に座っていた女の子たちが、そう言いながら笑っていた。
彼女たちの手には、小豆の優しい甘さにホッとさせられる“あずきバー”が握られていた。
あずきバーもあったのか。
私は、改めてメニューボードへ視線を向けた。
定番商品なのだろう、メニューの最後尾に控えめに記されていた“あずきあいす”という文字が目に留まった。
アイスクリームやアイスと呼ばれるものは世界中にあり、種類の違いも大差無いように思うけれど、
“あずきバー”は、日本ならではのアイスと言っても良いのではないだろうか。
そもそも、豆を甘く煮る国は、そう多くはないと聞いたことがある。
その上、歯が欠けないように、歯を傷めないように気遣いながら味わう硬いアイスだなんて、
話題性もあるのだと思うのだけれども。
アイスの硬さ、柔らかさは、含まれている空気の量と、
アイスに含まれている乳成分から水分を除いたものの量によって変わる。
アイスに含まれているそれらの量が多ければ、柔らかく、滑らかな食感になるけれど、
反対に少なければ、重い食感になったり、硬さも増したりする。
私たちがよく知っているあずきバーは、余計な食材が入っていないだけでなく、
空気や乳成分もほとんど含まれていない。
極端な話、ゆで小豆を凍らせたようなもので、口にする際は注意が必要となる。
あずきバーは、余計なものが入っていないからこその優しい味であり、あの硬さなのだ。
硬すぎて思うように食べ進めることができない、そのような“もどかしさ”はあるけれど、
ほっと一息つくときには、もどかしさを味わえるくらいの心と時間に余裕があっても良いのかもしれない。
近い将来、日本の伝統的な味と呼ばれるものの中に“あずきバー”も名を連ねるのではないだろうか。
と思いつつ、次は私も“あずきバー”を食べよう、そう思った雨の日だ。
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