コラッ!そう言われて動きを止める友人宅の犬。
「まだ何も悪さはしていないよ」ととぼけているようにも見える、その表情が、とても愛らしい。
床から中途半端に持ち上げられた状態で止まっている前足が、
「まだ何も……しかし、隙さえあれば」と語っており、思わず抱き寄せて顔をワシャワシャと撫でまわした。
きっと自分の計画が私にもバレていることを悟ったのだと思うのだ。
参りましたと観念したかのように、私の膝の上でふて寝を始めた。
交わす言語は違えども、人間と生きることを選んだ犬たちも、人間が使う「コラッ」と言う言葉が、
叱るときに発せられる言葉だと認識しているのだ。
しかしこれ、もとは叱るときや怒りを表すときに使う言葉ではないと言われている。
私の記憶に残っている語源は2つほど。
ひとつめは、古の薩摩(鹿児島)地方の方言で「コラ」は「あなた」という意味で使われていたと言われている。
そして確か、明治時代辺りだったと記憶しているのだけれど、
当時、今で言うところの警官の職に就いていた人の多くが薩摩(鹿児島)出身で、
彼らが、「あなた、ちょっと待ってください」と呼びかけるとき、
「コラ、ちょっと待って」、「コラ、ちょっと待ってください」などと言っていたのだそう。
この方言に慣れていない人たちには、
警官という職業から受ける雰囲気と、聞きなれない響きが合わさり、
威圧的な言葉に聞こえたのではないだろうか、と推測されている。
そのような印象から次第に、現在のような使われ方をするようになったと言われている。
もうひとつは、お殿様がいた時代、お殿様は自分よりも身分が低い者に対して、
「これ、もっと前へ」などと言っているのを時代劇で見たことはないだろうか。
そのシチュエーションからも推測できるとおり、「これ」という言葉を人に対して使う際は、
自分のそばにいる者を指す言葉で、「そこの者」、「そこのあなた」と言う意味があった。
この発音が、時代と共に「これ」から「こら」に変化し、
お殿様以外の者も「そこのあなた」という呼びかけとして使うようになったのだとか。
ただ、この説には続きがあり、更に時代を経る中で、
主に、今で言うところの警官たちが使い始めたとも言われている。
諸説あるという言い方もできるけれど、勝手なことを言わせていただけるのなら、
実際にこのような説が残っているのだとすると、お殿様が使っていた言葉と、方言として使われていた言葉が、
どこかのタイミングで、どこかの地で重なり合って広がり、現在に至っているようにも思う。
もともとは、叱ったり、怒ったりする際に使う言葉ではなかったのに、
叱ったり、怒ったり、注意喚起の意味合いで使われるようになった「コラッ」という言葉。
悪戯を阻止されて、ふて寝中の犬の前足を撫でながら、
人間と暮らす犬や猫たちとも共有できる言葉になっているとは、面白いものだと思った。
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