肉厚でぷりっとしたお姿がたまらない鮭を、じっくりと焼き上げた。
皮まで美味しく食べられるように、皮目はひと手間をかけてパリッと仕上げた。
何気ない焼き魚も、丁寧な気持ちで調理をすると、
心なしか、時間に追われるようにして焼いたそれと比べると、美味しさが数割増しになるように思う。
いつも通りの日常も、過ごす本人の気持ち次第、関わり方次第で、
自分が感じている以上の豊かさを感じられる暮らしに変えていくことができるのだろう。
ある日、数名で焼き魚が美味しいと評判のお店でランチをいただくことになった。
店内は、アイロンをかけたばかりのシャツのような、シャキッとした清々しさがある、明るい内装だった。
個室に案内され、各々、好みの魚を選んで焼いていただくことにした。
運ばれてきたメインの焼き魚は、どれも食欲をそそる仕上がりだった。
時折、個室内が静まり返っていたのは、その美味しさゆえのことだったのだと思う。
その場にいた全員が食事を終えたとき、
魚の皮を食べる派、食べない派とに分かれていることが話題にあがり、互いのお膳をのぞき合った。
食べない派の理由は、ぬるっとするような食感や脂が苦手だということだった。
私を含めた食べる派の面々も、皮目の焼き加減やメニューによっては遠慮することもあるけれど、
カリッと香ばしく焼き上げられているものは食べるという声が多かった。
そのような私たちのやり取りを、水菓子を手際よく出しながら聞いていたお店の方が、仰った。
お魚の皮には身の部分にも負けないくらいの栄養含まれているため、
当店では、出来るだけ皮まで召し上がっていただけるように、丁寧に火を通していると。
お魚と言えば、DHAやEPAという栄養素が注目されている。
これらは、物忘れや記憶力の低下、動脈硬化や心筋梗塞の予防などにも効果があると言われており、
お魚の皮の裏側についている脂肪に、たっぷりと含まれているのだ。
そして、この皮そのものに含まれている成分の多くはコラーゲン。
コラーゲンは、お肌のコンディションを整えてくれるだけではなく、
私たちの筋肉や丈夫な骨や血管組織を作る際に、欠かすことができない成分でもある。
他にも、糖質を代謝する際に必要となるビタミンB2や、粘膜を健やかに保つビタミンAも豊富。
これら、健康と美容に欠かすことができない成分のかたまりが、お魚の皮である。
歴史上の人物たちの逸話にも魚の皮が登場する。
あちらこちらで見聞きするため、誰か一人が言っていたのではないのだろうと私は思っているのだけれど、
有名どころを一人挙げるとするならば、水戸黄門様こと水戸光圀公ではないかと思う。
彼は、「鮭の皮の厚みが一寸あればいいのに」とぼやくほど、鮭の皮が大好物だったそう。
お魚の皮には嬉しい栄養が、あれもこれもたっぷりと含まれていますので、
お嫌いでなければ、ちょっと焼きすぎかしら?と思うくらいにカリッと焼き上げて、美味しく召し上がってみてはいかがでしょうか。
ちなみに水戸黄門様がおっしゃっていた一寸は約3センチ。
カリッと焼き上げたお魚の皮は美味しいけれど、3センチもの厚みがある皮には、さすがに怯んでしまいそうだ。
そのようなことを思った、ある日の夕食どき。
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