テレビを観ていたら、どこかの小学校の職員室だったと思うのだけれども、
ハエ捕り紙(という名称が合っているのかどうかは分からない)が、
天井からぶら下がっている映像が流れた。
まだ、このアイテムが使われていることを知り、様々な記憶が蘇った。
ハエ捕り紙とは、粘着性が強い液体でコーティングされたリボンテープのようなものを天井などから吊るし、
そのリボンテープに興味を持って近づいたハエを、粘着力で捕まえるハエトラップである。
この粘着性の強さは見た目以上で、人の皮膚や洋服に誤って付いてしまったら、取り除くのに一苦労する代物だ。
とてもリーズナブルな商品で取扱は簡単。
しかも、ハエたちが、このトラップにあっさりとかかってしまうため、
学校の備品庫には、これが大量に備蓄してあり、職員室には何本ものハエ捕り紙がぶら下げてあった。
しかし、これ。
見た目に問題があると思うのは私だけだろうか。
午前中の職員室で見た真っ新なハエ取り紙は、夕方頃にはハエやゴミ、時にハエ以外の虫をくっつけたまま、
窓から流れ込む風に吹かれ、7~8本のハエ捕り紙が風鈴の如く職員室で揺れていたのである。
私は、その光景を目にする度に、シュールな光景だと感じていた。
しかし、その光景のインパクトを超えたのは、当時の担任が、今日は昨日よりも多く捕れたのだと嬉しそうに言いながら、捕獲したハエの数を卓上カレンダーに書き込んだ瞬間だ。
え……毎日数えているの?記録しているの?そう思いながら、
カレンダーの枠の隅に書かれた小さな数字の正体を知り、密かに震え上がったのは、ここだけの話だ。
その震えあがった出来事の記憶もすっかり薄れた頃だった。
海外でお世話になっていた方のご実家のホームパーティーに招かれたことがあった。
ご実家は、農業を営まれていたのだけれど、
簡単にハエを駆除する方法はないだろうか?日本ではどのような物を使っているのか?と尋ねられた。
専門的なことは分からないと前置きをした上で、このハエ捕り紙と殺虫灯の存在を話してみた。
すると、非常に興味を持ったようで、まずはコストが低く、エコな印象を受けるハエ捕り紙を使ってみたいと言われた。
後日、日本と比べるとかなり割高ではあったけれど、
日本の物品を幅広く取り扱っているお店から、お試し用に入手して届けた。
満を持して使った彼らは、吊るしておいただけなのに、驚くほどハエが捕れたと言った。
だけれども、何だか浮かない様子。
何か問題でもあったかしら?と問うてみると、「ちょっと見た目が気持ち悪い。そして、私たちにはあんな残酷なもの、もう二度と使えない。」と返ってきた。
見た目も仕組みもしっかりと伝えたではないか。
私は見た目が苦手ゆえ、自前では使ったことはないのだけれど、それでも使ってみたいかと尋ねたではないか。
そう言おうにも時すでに遅し。
日本人ってアンビリバボーという言葉を連続で浴びていた。
彼らに悪気はないし、感想も十分に頷けるものだ。
そして、私もハエ捕り紙は苦手だ。
本来ならば、何かしらの気持ちや話題を共有できるアイテムだったはずなのだけれども、上手く噛み合わなかった。
彼らが初めて交流を持った日本人が私だったと後で耳にした。
その後、1度もお呼ばれしなかったところをみると、
私が、「日本人は意外と残酷だ」という印象を、彼らに与えてしまったのだろうと推測している。
ハエ捕り紙、何でもくっつけてしまうほどの粘着力を持っているのに、
私と彼らとのご縁はくっつけてはくれなかったようだ。
テレビ画面に映るハエ捕り紙を観て、そのようなことをポツリポツリと思い出した日。
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