時々、仕事を通して天然石を扱うことがあるのだけれど、国によって特別な思いを抱く石があるように思う。
元を辿れば、古から、その場所で採掘されており親しみやすい石であったことや、
様々な偶然が重って国境を越えてやってきた珍しさ、
石を通して何かしらの不思議な出来事を見聞きしたなど、様々なきっかけがあるようなのだけれど、
美しさを愛でるだけでなく、不思議な効果を求めるだけでなく、ロマンを追うだけでもなく、
そのような話に触れてみるのも天然石を味わい尽くすという意味では、醍醐味の一つだ。
先日は、久しぶりに吸い込まれそうなほどに美しい翡翠に触れる機会があった。
翡翠と一口に言っても、その色や透明度など石が見せる表情は様々で、そのひとつひとつに個々の美しさや愛らしさのようなものがある。
翡翠は硬度の違いによって、ジェダイト(硬玉)とネフライト(軟玉)と呼び分けられているのだけれど、
見た目だけでは、その区別が判断し難いため、ジェダイトもネフライトも、まとめて翡翠と呼ばれている。
私自身は、石の最終的な価値は、値段や見た目といったものに固執せず、
持ち主が自分にとっての価値を見出せば良いと思っているのだけれど、
一般的な判断基準では、ジェダイト(硬玉)の方がネフライト(軟玉)より価値が高いとされ、高額で取引されており、
この違いを、消費者にも分かり易く伝えるためにジェダイトは本翡翠とも呼ばれている。
この翡翠、実は世界で初めて見つけられたのは日本だと言われている。
時は縄文時代で、場所は現在の新潟県糸魚川だと。
そして、この時代の、この場所から日本の宝石の歴史が始まったと言われているのだ。
日本では、限られた地位の人々しか持つことができない貴重な石として扱われていたのだけれど、
これは日本に限ったことではなく、中国でも昔から、今も変わらずステイタスシンボルとして人気がある。
中国で翡翠は、「玉(ぎょく)」と呼ばれて親しまれているのだけれど、これは、ある時代の話が元になっている。
その話がこれ。
ある日、国の運営に携わっていた呂尚という男性が、中国最古の王朝A国の支配下にあったB国で釣りをしておりました。
しばらくすると、竿が振れ、鯉が釣れたのですが、
驚いたことに、その鯉のお腹の中からは、一枚の翡翠板が出てきたのです。
その翡翠板には、『次の王朝はB国である。そして黄金時代を迎える。
お前は、その王朝の実現に手を貸さなければならない。』というメッセージのようなものが記されておりました。
呂尚が不思議そうに翡翠板を眺めていると、ある青年が声をかけてきたので、
呂尚は、翡翠板と、そこに記されているメッセージのことを青年に話したのです。
すると、その青年は呂尚の前にひざまずき言いました。
「私の父は、あなたが現われるのを待ち望んでおりました。是非、お力をお貸しください」と。
その後、B国は中国最古の王朝であったA国を倒して国を統一し、
翡翠板に記されていたとおり、黄金時代となったのだとか。
中国では国王の席のことを玉座と呼ぶけれど、この玉とは翡翠のこと。
このような話が語り継がれてきていることもあり、
翡翠は古より「徳」を高めることで「成功と繁栄」をもたらす石とされ、
歴代の国王や先人たちが特別視し、大切に扱ってきた石である。
現在も、仕事や恋愛、家族の繁栄、財や富に関わる、あらゆる目標や望みを成功や成就へと導く手助けになってくれると言われている。
今の私たちとは比べられないくらい長い年月を過ごしてきた石にも、
私たちと同じように様々な歴史があるのだ。
翡翠は、身に付ければ身に着けるほど美しさが増す、色が育つ石だと言われますが、
翡翠をお持ちの方は、柔らかい布で小まめに汚れを拭き取るなどのお手入れもお忘れなく。
ちょっとしたことですが、翡翠の美しさが曇ることを防ぐことができます。
持ってはいるけれど、ジュエリーボックスに入れっぱなしだという方も、
お時間がありましたら簡単なお手入れをしてあげてみてはいかがでしょうか。
きっと石が目を覚まし、輝きが増すはずです。
翡翠を目にしたり、触れたりする機会がありましたら、
その美しさを愛でつつ、今回のお話の中に登場した“何かしら”を思い出していただけましたら幸いです。
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