お酒を嗜むようになって、しばらくしてからだ。
連れて行かれた小料理屋のお品書きに“占地”の文字を見つけたのは。
そのまま読めば“しめじ”なのだけれど、まさか、あのキノコの“しめじ”ではあるまいと思ったのも束の間、
そのメニューが運ばれていく様を目にし、その文字が、誰もが知る、あの“しめじ”であることを知った。
と同時に、“しめじ”に漢字が充てられていることを知らなかった自分を知った瞬間でもあった。
それから、随分と月日は流れた先日の出来事だ。
私は、いつか必要になるかもしれないという理由だけで、ある資料に目を通していた。
少々、その資料にも飽きてきており、無意識に斜め読みをし始めたときだった。
“湿地”の文字が目に飛び込んできた。
その文章の流れから、それがキノコである“しめじ”を指していることは分かった。
そして私は、それをミスプリントだと思ったのだ。
しかし、あまりにも堂々たるミスプリントだったため、本題のことなど気にも留めず、
それはそれは久しぶりに“しめじ”の表記を調べてみたのである。
すると、地面を占めてしまうほど、ビッシリと生える様から“占地”と書くこともあるし、
湿った地面に生える様から“湿地”と書くこともあるため、どちらも間違いではないという答えに辿り着いた。
小指の爪ほどの衝撃を受けた“占地”表記の出会いから時を経て、再び感じる小さな衝撃である。
知りはしたものの、私はそのどちらかを使うのではなく、
これまで通り“しめじ”や“シメジ”と書き記すのだろうなと思いながらキノコの世界をのぞいていると、
“菌(きん)”という文字は、乳酸菌やビフィズス菌といった菌類を表す漢字でありながら、
“菌(くさびら)”と読むことができ、この一文字でキノコを表すことができるのだと知った。
しかも、滋賀県の栗東市には、菌神社(くさびらじんじゃ)と言ってキノコをお祀りした神社があるというのだ。
せっかくなので、菌神社(くさびらじんじゃ)のことも齧ってみた。
もともとこの神社は、草平社と呼ばれていたそうなのだけれど、
古の頃、この地が飢餓に見舞われたことがあり、
そのときに、一夜にしてキノコが境内に生えて、人々を救ったことが、
菌神社(くさびらじんじゃ)に改名するきっかけになっているようだ。
キノコの世界へ寄り道をしたある日の夜。
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