裏道りへ入ると、数人の大人たちが路上駐車中の車の前に集まっていた。
何ごとだろうかと思いながら通り過ぎようとしたときに目に入ったのは、並べて駐車してあった4台の車だった。
前後の隙間が極端に狭く、車の向きもバラバラだったため、車を出そうにも出せないような状況になっているようだった。
何か予定があったのだと思う。
輪の中にいたスーツ姿の一人は、しきりに時計を気にしており、通りかかった人たちも輪に入り、「どうしてこんな停め方を」といった声が辺りにまで聞こえていた。
この状況で、問題の車の主が戻ってきたら、さぞかし、ばつが悪い思いをするに違いない。
ここは日本だから、日本流の暗黙のルールがある。
だから、あの場面では「どうしてこんな停め方を」と言われてしまう。
しかし、これがパリだったなら。
「何がダメなの?スペースがあったんだから、いいじゃない。」と言わてしまうような気がする。
しかも、停車中の車を出そうとして車がぶつかっても、それくらいの事で大事にはならないのではないだろうか、と思う。
パリでは路上駐車が当たり前のように行われている。
これは専用駐車場のようなものが少ないため、住民たちは自宅付近の路上に駐車しても良いことになっている。
もちろん、路上を使わせてもらうための代金は支払っていたと記憶しているのだけれど、その金額がパリ市内とは思えないほど、とても安いのだ。
そして、個々に駐車スペースが割り当てられているのかと思いきや、駐車スペースはその都度、早い者勝ちだというから驚きだ。
私は、知人の車で遠出をした後、その日は知人宅に宿泊することになったため、
車で帰宅したことがあったのだけれども、
知人宅周辺を4、50分ほどのろのろ、グルグルと走り、駐車スペースができるのを待つという経験をした。
車を止められないために、自宅に帰ることができないなんて驚いたけれど、
そこに停めるのは無理じゃないかしら?というようなスペースにも車を捩じり込むようにして駐車することにも驚いた。
そのような停め方をすれば、当然、前後の車に自分の車をぶつけることも、ぶつけられることもあるのだけれど、お互いに気にしない。
日本だったら、駐車している隣の車を擦りでもしたら、それなりの話し合いになるのだけれど……。
そのような駐車事情だから、車の向きは始めから誰も気にしていないため、「どうしてこんな停め方をするの?」というクレームは、ほとんど無いという。
この出来事は、私にとってカルチャーショックのひとつであり、
様々な類の大らかさがあるのだと感じた出来事でもあったため、今でも鮮明に覚えている。
しかし、ここは日本である。
あの4台の、それぞれの車の持ち主たちが、心穏やかに、あの場を立ち去ることができたことを願うばかりである。
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