駅のホームで電車を待っていたときのこと。
手持ち無沙汰がそうさせたのだろう。
線路を挟んだ向かい側に建つビルの部屋を端から順に眺めていた。
見慣れているはずのビルだと思っていたけれど、ビル内にある一室が社交ダンス教室であることに初めて気が付いた。
ずっとそうなのか、最近開かれた教室なのか、正確なことは分からないけれど、
時折見える、ダンス中の生徒さんらしき方々を眺めていたら、ふわりと懐かしい記憶が蘇った。
もう随分と長い間忘れていたのだけれど、ワタクシ、社交ダンスを習っていたことがある。
あれは単なる思い付きだった。
何か新しいことをしてみたいという衝動に駆られ、
当時の最寄り駅に隣接した複合施設内で開かれていた、カルチャースクールのチラシを片っ端からもらって帰ったのだ。
深夜まで、それら1枚、1枚に目を通し、翌日の仕事帰りに体験しに行った。
社交ダンスは、英国在住中に必要に迫られて経験があったけれど、
当時、周りの方々からは、女性は男性に任せておけば何とかなるから大丈夫よ、などと無責任なことを言われ、とても緊張したことを覚えている。
その時のリベンジを、という気持ちではなかったけれど、
もう少しだけ、社交ダンスのことを知ってみたかったのだろう、私は、数あるスクールの中から、それを選んでいた。
記念すべき体験の日、受付を済ませて入った部屋の中は、普段私が身を置いている空間とは明らか違う空気が漂っており、
若干、年齢層が高いように感じられた生徒さんたちが、全身から、キラキラとした何かを放ちながら、軽やかに踊っていた。
あの時と似たような緊張感に包まれながら見学し、少しだけ練習に参加し、
その場で3か月コースに申し込み、何とか通いあげた。
3か月経つ頃には、上手い下手は横に置いて、楽しく踊ることができるくらいまでには成長できたのだけれど、
私の社交ダンス歴は、そこで止まってしまった。
当時も今も、技術云々の本格的な所は全く分からないままだけれど、
楽しく踊るには、相手への思いやりと、相手のことも自分のことも信じる力が必要なダンスなのだろうと感じた記憶だけは、しっかりと残っている。
初めての経験は、視野を広げて五感を豊かにしてくれると同時に、
大切なことを、普段とは異なる形で見せてくれるようにも思う。
私の中には、ステップをはじめとする何もかも残ってはいない。
それでも、楽しくて不思議な時間だったと、
社交ダンス教室を見上げながら懐かしく思った。
どんなに小さなことだったとしても、些細なことだったとしても、
何か新しいことにトライする機会が巡ってきたときには、
その扉の奥をのぞいてみてはいかがでしょうか。
自分自身を豊かにする種が落ちているような気が致します。
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