レジカウンターに並んでいたのだけれど、一向に進む気配が無かったため、前方の様子を伺うった。
すると、スタッフの方が何度も頭を下げながら、目の前のお客に返品のお断りをしているところだった。
徐々にヒートアップするお客とのやり取りに不安を感じたのか、先輩スタッフらしき方も、その場に加わった。
私を含め、並んでいるお客たちは何も言わないけれど自分の順番待ちをしながら、前方の様子を伺っていた。
使われていなかったレジが開けられ、少しずつお会計の順番が近づいてきたときだった。
商品を返品したいというお客が言った。
「大体、日本は遅れている。1か月返品やギフトレシートのサービスは海外では常識だ。
私は、このプレゼントは気に入らなかったし、使わないから返品したいのだ。」と。
思わず私の心が、「ここは日本ですからね……。」と声を出さずに呟いた。
私が住んでいたイギリスは返品大国で、その方が言うようなサービスが常識だった。
ギフトレシートとは、贈り物を購入して相手に渡しても相手が気に入るとは限らないため、
気に入らなかったり、サイズが合わなかったり、色を変更したくなった場合は、
商品とそのギフトレシートを持ってお店に行けば、
商品の交換や返金(ギフトカードやポイントでの返金)を受け付けてくれるサービスを受けることができるレシートのことだ。
とても効率的なサービスだと感じる人もいらっしゃるけれど、
私は、このサービスには最後まで馴染むことができないまま帰国した。
贈り物は、贈り手が込めてくれた気持ちや、自分の為に使ってくれた大切な時間やお金など、
品物だけでは測ることができないものだと思っているのだけれど、
それらを簡単に、ギフトカードやショップポイントに変えてしまうことに馴染めなかったのだ。
お店によって対応は少々異なっていたのだけれど、
贈り物の金額が、ギフトレシートにはっきりと印字されてしまうお店があることにも抵抗を感じ、
それならば、最初からギフトカードを贈る方がスマートじゃないかしら、と思ったりもしていた。
もちろん、贈る側になれば、少しでも気に入ってもらえた方が嬉しいという思いはあるのだけれど、
それでも、このサービスは、どちらの立場に立っても複雑な心境になり、
異国ならではの文化として受け止めたサービスのひとつだった。
贈り物に限らず、イギリスでは、「とりあえず買って帰ったらどうですか?ご自宅でゆっくり考えて、
必要なくなったり、気に入らないと思ったなら30日以内に返品しに来ていただければいいですよ。」と言われることも多かったように思う。
しかし、自分がどっぷりと浸っている習慣や文化というものは分かり難いものでもある。
日本には、ご祝儀など、冠婚葬祭で現金を渡す習慣があるけれど、
この習慣を彼らに話した際に、妙な習慣だと言って眉をひそめられて初めて、
イギリスのことを返品大国、馴染むことができなかった習慣だと言っている私も、
彼らから見れば同じなのだと気付かされた、という経験がある。
日本でもギフトレシートのようなものを発行している所があるけれど、
何を合理的だと思うのか、何に対して抵抗を感じるのか、
様々なスタイルが入り乱れる昨今は、サービスを提供する側も利用する側も、この辺りの判断や見極めが難しいのだろうと思う。
結局、返品をお断りされた方は、腑に落ちない空気をまとい、レジを去っていった。
久しぶりにギフトレシートの存在を思い出し、あれやこれやと思いを巡らせたレジタイムであった。
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