郵便受けから郵便物を取り出して自宅へ入った。
鍵を所定の位置に片付けながら視線を郵便物に落とすと、ミルクチョコレートのような色をした温かみを感じる封筒に目が留まった。
他とは異なる雰囲気のそれを引き抜いて、送り主を確認しようと裏返すと、封蝋で封がしてあり、そこに花文字のアルファベットが刻印してあった。
封蝋とは、封筒や文書に封をしたり、容器を密封する際に使われる蝋(ロウ)のことで、
シールのような役割を果たしつつ、誰にも開封されていないことが分かる目印のようなものである。
そして、この蝋(ロウ)が固まってしまう前に、御家柄を表す紋章や、アルファベット、好みの柄などを凹凸で表しているスタンプを押し、形を刻印するのだ。
この刻印スタンプはシーリングスタンプなどと呼ばれている。
封蝋を愛用している私の知人は2人しかいないため、そのアルファベットからすぐに差出人が分かった。
封蝋やシーリングスタンプは西洋の文化だけれども、日本にもこのような文化がある。
手紙や案内状、書類等に封をすることを封緘(ふうかん)というけれど、
封をする方法は、シールを貼ったり、糊付けで封をした上に封緘印を押印したり、封字を記入したりと、様々な方法がある。
そして、この様々な方法には、お作法があるのだ。
今回は、そのようなお話を少し、と思っております。
封緘(ふうかん)は、封筒の口を糊付けした部分と本体の双方にかかるように文字を書き記したり、押印するなどして、
封筒を開封した際には開封痕が残るような仕掛けを施すことです。
差出人が封をしたことを知らせるのと同時に、受取人の手元に届くまでの間に、
誰かによって中身を見られてしまうことが無いよう防ぐ目的があります。
封緘(ふうかん)をする際に封字として使用される文字には、「〆」、「緘」、「封」、「締」などがあり、
これらの封字を印鑑にしたものや、封字に絵を組み合わせた印鑑などは封緘印と呼ばれています。
封字、封緘印の他にも、封緘(ふうかん)として使用されるものには、封緘シールもあります。
よく使用されるものではありますが、このシールを使用する際には、
封筒の口を糊付けをする場合と、糊付けをしない場合があるので、注意が必要です。
封筒の口を糊付けをした上に封緘シールを貼るのは、郵送する場合で、
封書を郵送せずに手渡しする場合には、糊付けをせずに封緘シールを貼るのが、お作法です。
そして、西洋の文化と同じように蝋(ロウ)を使って封をする封蝋があります。
これらは、TPOを踏まえた上での使い分けが必要ですが、誰もが使う機会がある封緘は、封字かと思います。
主な封字には、「〆」、「緘」、「封」、「締」などがありますが、
シーンや相手を選ぶことなく使用することができる万能封字は、「〆」です。
どの封字を使用するべきか迷った際には「〆」を使用することを覚えておくと良いのですが、
契約書などの重要な書類や手紙、礼節を重んじるようなシーンでは、
もう少し重要度や礼節度を強く表したいこともありますので、
そのような時には、「緘」や「封」、「締」を使用すると良いかと思います。
一方、親しい間柄の方への封書や、お祝いごとに関する封書であれば、このような封字を選ぶこともできます。
例えば、様々なお祝い事や祭りごとの際に使用するのであれば「賀」という文字で封緘(ふうかん)を。
結婚やその他のお祝いの際に使用するのであれば「寿」を。
他にも、封を開くことに華やかな想像を重ねることができる文字として「花」や「道」、
封緘するだけでなく、そこに幸せを願う気持ちを添えて「幸」という文字を封字として使う方もいらっしゃいます。
TPOを踏まえた「〆」、「緘」、「封」、「締」といった封字は定番中の定番なのですが、
このように、封字は、その時々の気持ちや思いを自由に乗せることができるものでもあります。
その時々の気持ちや思いを封字に乗せてみたいけれど、まだ自信がない、少し気恥しいという女性の方は、
女性のみが使うことを許されている「蕾(つぼみ)」、「莟(つぼみ)」、「つぼみ」といった定番の封字があります。
この封書はまだ誰も開けていません、開いていません、という意味が込められた女性らしい封字です。
直ぐに読むことができる「蕾(つぼみ)」や「つぼみ」も気恥しいという方は、
こちらの「莟(つぼみ)」を使われても良いかもしれませんね。
年末のご挨拶などで筆を取る機会がありました際には、封字にトライしてみてはいかがでしょうか。
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