調味料がずらりと並ぶ陳列棚の前で必要なものをカゴに入れていると、ポンポンと肩を叩かれた。
吟味中だった調味料の袋を手にしたまま振り返ると、ブロンドヘアの女性が立っていた。
女性は、スマートフォンを私へ見せながら画面をタップした。
すると画面から、ぎこちない日本語で「赤い胡椒はどこですか?」と声が出た。
おぉ……。私は未だ、翻訳機能アプリというものを使用した経験も、使用している方を目撃したこともなかったため、妙な感動を覚えた。
リアクションがズレてしまっていたのか女性は再び画面をタップし、「アカイ コショウ ハ……」とスマートフォンが喋り始めた。
私は、丸くて赤い粒が可愛いピンクペッパーと柚子胡椒の赤バージョンを手に取り渡そうとしたのだけれど、女性は、それではないと残念そうに首を振った。
赤い胡椒と日本で聞いてしまったため、すっかり思考から抜け落ちていたのだけれど、外国の方は赤トウガラシのことをレッドペッパー、チリペッパーなどと呼ぶことを思い出した。
日本には、「唐」の国から伝わってきた辛子という意味と、国外から伝わったものを指す「唐」から「唐辛子」と名付けられている。
あとは、カットする前の唐辛子の形状が鷹の爪のように鋭いことから「鷹の爪」という異名もある。
ここには、何の違和感も覚えないのだけれど、レッドペッパー、チリペッパーと聞くと「何故、胡椒?」「紛らわしい」と感じたことは一度や二度ではない。
きっと、どこかのタイミングで調べたのだと思うのだけれど、
これ、あの冒険家、探検家として知られているコロンブスの呼び間違いが、そのまま定着してしまっているのである。
実は彼、私たちが思っているよりも、おっちょこちょいなのである。
彼はインドを目指して出発したけれどインドではなくアメリカ大陸を発見することとなる。
しかし、彼はインドを目指していたわけだから、その先入観から、発見した大陸をインドだと思い込んでしまうのだ。
その思い込みを元に、その土地に住んでいた人々を見たため先住民である彼らをインド人だと思って疑わず、インド人という意味でインディアンと呼び、この呼び方が定着してしまっているのだ。
そして、今回のメイントピックでもある唐辛子だけれど、
このアメリカ大陸を発見した航海の真の目的は、インドから胡椒を輸出するための航路を見つけること。
だから彼は、見つけた大陸はインドだと思っているし、インドには胡椒があると思っていたのだろう。
アメリカ大陸で発見した唐辛子を「ペッパー」と呼び伝え、現在も唐辛子は英語でレッドペッパー、チリペッパーと呼ばれている。
ただ、ワタクシ、コロンブスのことをおっちょこちょいだと言ってしまったけれど、
彼のことを研究している方々の意見は、賛否両論で非常に興味深い。
中には、コロンブスは様々な状況を考慮して、敢えて言い間違い続けていたのではないだろうかと推測する方もいらっしゃるのだ。
コロンブスが存在していない今となっては、直接本人に確かめることも出来ず、真意は闇の中ではあるのだけれど、
人々があれやこれやと考えてしまいたくなる魅力と話題が尽きない人物であることには間違いないようである。
私個人の勝手な思いとしては、「言い間違っちゃたよ」と笑うコロンブスも、十分に魅力的なのだけれど。
唐辛子を召し上がる機会がありましたら、ちらりと、お好きなコロンブスを自由に想像して楽しんでいただけましたら幸いです。
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