歩きすぎたのか、ズキズキと鈍い痛みを足裏に感じながら帰宅していたときの出来事である。
鞄の中には、このような事態に備え、足の痛みを緩和させるアイテムをいくつか忍ばせているのだけれど、自宅は目と鼻の先という距離に達していたため、
その日は、それらのアイテムを投入することはせず、柔らかい春風を浴びながら帰ることにした。
時間を気にせずに、のんびりと歩くことができる細やかな自由が妙に心地良かったものだから、見慣れた風景に視線を泳がせながら歩いた。
しかし、いつ何時も油断しすぎてはならないのかもしれない。
不意に目の前から、チラシのようなものが飛んできて、私の顔をバサッと覆った。
漫画じゃあるまいし、止めてよ……。
気弱なことを思いながら顔に張り付いたチラシを剥ぎ取ると、2枚目、3枚目と更なるチラシが前方から飛んできた。
と同時に、チラシの持ち主グループの一人が、すみませんと言いながら走ってきた。
避けきれなかったことに恥ずかしさを感じつつ、キャッチした数枚のチラシを手渡した。
柔らかい春風も、足の傷みも一瞬にして消えたような出来事であった。
その後、無事に帰宅し、チラシが前方から飛んでくるときの様子が何かに似ていると感じた数日後、それが年明けに目にした記事にあった「不思議の国のアリス症候群」だと気が付いた。
私、不思議の国のアリスの世界観が好きだということもあってなのか、不思議の国のアリスというフレーズや文字はキャッチする機会が多い。
そして今回も、物語にまつわる何かしらなのだろうという興味で食いついた文言だった。
しかし、中身は私の予想に反していた。
それは、物の見え方に異常が起き、目に映るものが大きくなったり、小さくなったり、飛んでくるように見えたりという、錯覚とも言えるようなことが起きる症状のことを指す言葉だった。
このよう症状は、不思議の国のアリスの物語冒頭で、アリスが小瓶に入った薬を飲んだことによって、自分の体が大きくなったり、小さくなったりして、
周りにある物の見え方が変わる様子に似ていることから、そう呼ばれているという。
その記事内では、とある男性がパソコンを使っていたところ、モニター画面からアイコンがゆっくり飛び出し、自分の方へ向かって飛んできたと訴えたことが取り挙げられており、
話題は医療的な話へと広がっていたのだけれど、
どうやら私は、その記事を読んで想像した風景と、私の方へと飛んできたチラシの風景が何となく重なり、何かに似ていると感じたのだろうと思う。
その男性が観た風景は、私のチラシ事件くらいリアルなものだったのだろうかと想像すると、脳はとても繊細にできているのだと改めて感じたりもした。
先日も、「脳内のゴミ」の話題に触れたばかりなのだけれど、
「休む=怠けている」という感覚や思考は早々に、「休む=とても大切なこと」と書き換えた方が良い時代のようだ。
と、自分自身に言い聞かせて、ぼーっとする時間をもっともっと確保しようという邪な自分がチラ見えした「顔にチラシ張り付き事件」である。
関連リンク:https://www.tandfonline.com/toc/nncs20/current
画像をお借りしています:https://jp.pinterest.com/