いつのことだったかは覚えていないのだけれど、随分と前のことだ。
ドライブをしていたときに偶然立ち寄った自然公園のような敷地内の片隅に、蝶を展示している建物があった。
博物館と言うにはアットホームすぎる雰囲気の古い建物で、誰でも好き勝手に入って展示物を見ることができる、無人の展示室だったのだけれど、
建物内に展示してあった蝶は、どれも美しくて見応えがあった。
標本の数も非常に多く、あれほど多くの標本を一度に目にしたのは、あのときが初めてである。
蝶に関する十分な知識を持ち合わせていない私にとっては、珍しい蝶か否かということよりも、分かり易くハネ(翅)のフォルムや色彩に魅せられることがほとんどで、
当時も、地味な蝶の標本の前は足早に通り過ぎ、宝石のように艶やかな色彩や模様を持った蝶の前に立ち止まっていたように思う。
そして、ある蝶をみて、この蝶のことは忘れたくないと感じたのだと思う。
普段は、カメラに収めるよりも自分の記憶に残そうとすることが多いのだけれど、その蝶の姿だけは写真に収め持ち帰った。
その蝶を見返す機会がないまま数年経った先日、PC内に保存してあった古い写真データを整理していると、その蝶の画像が出てきた。
すぐに、あのときの蝶だと分かったのだけれど、改めて眺め直してみても、やはり美しい蝶であった。
数年経ってようやく、その蝶の名を調べてみたのだけれど、
アゲハ蝶であることが推測できたくらいで名前までは分からず、美しいという印象にミステリアスさが加わった。
蝶を研究したり、コレクションしている方々は、このような一期一会の出会いを繰り返す中で、蝶の虜になるのかもしれない。
そのようなことを思いながら、PCのモニター越しに蝶と戯れていると、日本には国蝶(こくちょう)に定められている蝶がいるのだと知った。
国蝶(こくちょう)というのは、日本を象徴する蝶のことで、オオムラサキという名の蝶が、これにあたるという。
国蝶(こくちょう)だからと言って、法律で定められているということではなく、
日本昆虫学会が、数多くいる蝶の中から、日本中どこでも誰でも簡単に見ることができ、大型で模様がはっきりとしている蝶の中から選んだ蝶なのだそう。
(※どのような蝶なのかというと、このような蝶です。)
しかし、私は簡単に見ることができるらしいこの蝶を知っている気がしない。
オオムラサキが国蝶として選ばれたのは1957年だというから、
生態系が変わってしまったのだろうかと思ったり、ただ単に私が見かけていないだけなのだろうかと思ったり。
蝶は吉兆モチーフだと言われているけれど、蝶をみかけたら何か良いことや良い知らせが舞い込むというよりは、
「蝶を目にできたことそのものが、とてもラッキーなこと」と言う方がしっくりとくるように思う昼下がりである。
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