大人たちが発する「オーエス、オーエス」という掛け声が聞こえてきた。
視線を、次第に大きくなる声がする方へ向けて歩いていると、イベント会場と化したグラウンドで行われていた綱引きの掛け声だと分かった。
お天気が良く、寒さも和らいでいたその日の景色に溶け込んだ掛け声で、春だなと思いながら通り過ぎた。
その場所を通り過ぎて数時間ほど経過した頃だっただろうか。
もう、その綱引きの景色のことはすっかり忘れていたのだけれど、私の脳内BGMが「オーエス、オーエス」と、数時間前に聞いた掛け声であることにハッとした。
家を出たときには、直前まで聴いていた楽曲が脳内BGMだったはずなのに、よりによってオーエスって……私の頭の中も陽気な春である。
そもそも、この綱引きのときに声掛け合うオーエスって何ぞや?
そのようなわけで、薄々お気付きかと存じますが、今回のお話コードは「オーエス」でございます。
この機会に知ってみようかしらと思われた方、
仕方ないから柊希に付き合ってあげようかしらと思われた方、少しばかり柊希にお付き合い下さいませ。
結論から言ってしまうと、「オーエス」という掛け声の語源は諸説あるものの、正確な答えは未だ不明なのだそう。
ただ、有力な説として巷で言われている語源は、フランス語の「オーイス」ではないかとのこと。
これは船乗りたちが船の帆を張ったり、巻き上げたり、旗を掲げたり、引っ張ったりする際に使われていた掛け声で、
日本語で言うところの「よいしょ」「せーの」といったニュアンスが含まれているようです。
そして、明治時代のはじめ頃、日本で暮らしていたフランス人たちが交流の場で行われた綱引きに参加した際、
この「オーイス」という掛け声を使っていたようなのですが、この掛け声を聞いた日本人には、「オーエス」と聞こえたようで、
日本には、綱引きの際に使う掛け声のひとつとしてオーエス」が使われているのだそう。
「ザ・聞き間違い」が定着してしまった言葉は多々ありますが、ここにもまたひとつ、といったところでしょうか。
私も聞きなれていない発音を真似ることが苦手なので、これくらいのことは想定内であり、ご愛敬だと思うのですが、
現在、この掛け声の語源を知って使っている人がどれくらいいるのだろうか、と思ったりも致します。
私自身、語源も分からぬまま脳内BGMとしてリピートしていたわけですが、
意味も語源も分からぬまま受け継いでいる律義さを微笑ましく思った「オーエス」の背景でした。
オーエスと発する機会は、そう簡単に巡ってくるものではないでしょうけれど、
もし、発する機会や耳にする機会がありました際には、今回のお話をちらりと思い出していただけましたら幸いです。
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