年が明けて間もない頃、お目当ての洋書をネット上で探していたときのことだ。
洋書を探していたはずなのに、どういう訳だか、私のPC上には江戸の料理本のタイトルが並んでいた。
当時出版されたものを多くの方が各々の視点で翻訳された著書なのだけれど、
これだけ多くの本が出版に至ったということは、それだけ人を惹き付ける何かが当時の料理レシピ本にはあるのだろうと思った。
以前、黒胡椒をピリッときかせた江戸料理のひとつ、胡椒めしについて触れたことがあるけれど、今回私の目に留まったのは『豆腐百珍(とうふひゃくちん)』という豆腐料理のレシピ本である。
紹介されている豆腐料理のレシピ数はとても多く、家庭で簡単に調理できる尋常品から、少し変わった奇品、豆腐の美味しさを最大限に生かした絶品など、全部で6つのカテゴリーに分けられている。
ファッション誌などで、限られたお洋服を上手に着まわした1カ月間コーディネートを紹介していることがあるけれど、それに近いような印象を受けるような1冊である。
いつの時代にもブームというものがあるけれど、この『豆腐百珍(とうふひゃくちん)』は、当時の江戸でベストセラーになり豆腐料理ブームを引き起こしたのだとか。
そうとなれば、時代は違えど豆腐百珍(とうふひゃくちん)に続け、となるのは想定内のこと。
その後、豆腐百珍(とうふひゃくちん)の『続編』が出版され、その2冊に収められなかったレシピを集めた『余禄』まで出版されたのだそうだ。
更にこのブームに乗り、レシピ本は、お芋のレシピを集めた『甘藷百珍』、『卵百珍』と続いたと言いう。
私たちにとって豆腐は、様々な点から頼りになる有難い食材なのだけれど、身近すぎる食材であるがゆえに、作るメニューが何となく限られてしまうことがある。
しかし、このレシピ本をのぞくと、豆腐の底力や、ひとつの食材を、これほどまでに味わい尽くしていた当時の人たちの食の豊かさのようなものを感じられるような気がした。
そして、私たちも、豆腐は様々な調理方法や味付けで食べられるということくらいは、簡単に想像できるけれど、
当時の人たちとは異なる、ある意味複雑な豊かさの中で暮らしているため、味わいきれていないのだろうとも。
このレシピ本、現代語に翻訳されてはいるのだけれど、世の中にレシピ本のようなものが定着する前の時代のものなので、
現代の写真や分量が丁寧に記されているレシピ本や、簡単な動画で手順を確認することができるレシピに慣れすぎてしまっている私たちには、若干の想像力も必要となるのだけれど、なかなか興味深い1冊である。
私はまだ、レシピを脳内でシュミレーションしているだけなのだけれど、近いうちに気分転換も兼ねて江戸メニューを楽しんでみようと思っている。
日本の食文化が豊かなのは、こうした探求心や楽しもうとする気質がベースにあるからなのかもしれない。
書店や図書館などで『豆腐百珍』や『江戸料理』の本を目にする機会がありましたら、その中身をちらりとのぞいてみてはいかがでしょう。
慣れ親しんでいる身近な食材の違う一面を垣間見ることができるかもしれません。
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