敷地の一部分を椿で目隠ししている場所がある。
信号待ちをする際に目に留まる場所にあるため、冬から春にかけては、そこに咲く椿の花を無意識に眺めているように思う。
素人の私には、品種等までは分からないのだけれど、この場所に咲く椿は、早いものは年末辺りに咲き始め、その花が散ったと思ったら冷え込みが厳しくなる2月頃に再び艶やかな花を付けている。
そして、すぐそばに植えられた桜が咲くこの時季、再び花を咲かせるのだ。
桜と椿を一緒に愛でられることもあり、信号待ちをしている人たちの、目線を上下に往復させて桜と椿の両方を楽しむ姿が印象的な交差点でもある。
先日、私も例に漏れることなく目線を上下に往復させていると、通りすがりの方と剪定業者の方との会話が耳に届いた。
なんでも、この場所の椿は、開花時期が異なる品種の椿をバランスよく寄せ植えしているため、年末からこの時期まで椿の花を楽しむことができるのだそうだ。
椿は品種によって咲く時期が異なるため、一年中何かしらの品種が花を付けていると聞いたことがあったけれど、
私には寄せ植えをするという発想が無く、この場所の椿は何度も花を付ける品種なのだろうと、勝手に思い込んでいたのだけれど、そのようなひと手間がかけられていたなんてと、思った。
そして、ギリギリ桜と一緒に楽しめるようにという思惑もあったのだとか。
思わず心の中で、その思惑、天晴!と思った。
桜同様に椿も古より日本人に愛されてきた花で、万葉集の中にも度々登場する。
特定の季節を表現する季語として使われているのだけれど、木の春と書く「椿」の文字からも分かる通り、椿は主に春の3か月間を表す季語として使われている。
この3か月間というは、節分を迎えた2月から5月上旬辺りまでの期間を指し、三春(さんしゅん)と呼ばれている。
現在をこの季語で表すならば、晩春の頃になるだろうか。
しかし、椿は真っ白な雪景色の中に艶やかな深紅を添える冬の花のイメージを持っている方もいらっしゃるかと。
私は、どちらかと言えば、この冬のイメージが強いのだけれど、この時季に使われる椿の季語は、冬を表す言葉を組み込んで、冬椿、寒椿、早咲の椿と表現される。
わざわざ冬の要素を組み込んでいる辺りからも、椿が春の植物だとして認識されていたことが分かるかと。
また、花は無いけれど秋にできる実の様子を切り取った、椿の実という秋の季語もある。
幅広い季節を表現できる植物はそう多くはないため、このような表現からも椿が古より人のそばに在り、愛されていたことが感じられるように思う。
4月は、冬と春の雰囲気を併せ持った椿の花と、春の代表格でもある桜を同じ時季に見ることができる時季でもあります。
是非、椿と桜の共演をご堪能いただき、今回のお話をチラリと思い出していただけましたら幸いです。
画像をお借りしています:https://jp.pinterest.com/