窓の外から、思わず身を捩らせてしまいそうなキィーという音がした。
何かの音に似ていたのだけれど……と思うや否や、再びその音が室内に流れ込んだ。
あまり得意ではない音だったこともあり窓を閉めようと立ちあがったときに、黒板にチョークが引っ掛かったときに出る、あの音に似ているのだと気がついた。
何かを引っ掻いたときに出る甲高い音は、自分の体の内側まで引っ掻かれたような、背筋がぞわぞわっとうずくような、奥歯がムズムズするような、何とも言えない感覚を伴う不思議な音である。
過去に、この手の音を聞いても何も感じないという人に出会ったことがあるけれど、それでも大半の人は苦手な音の部類に入るのではないだろうか。
以前、聴力検査を受けた際に、このような音に対して出る反応は、原始時代の名残による本能的なものだという説があるという話を耳にした。
今回はそのようなお話を少し、と思っております。
ご興味ありましたら、お好きなお飲みもの片手にお付き合い下さいませ。
どうして人は、ひっかき音が苦手なのか。
これは、私たちの祖先だと言われているサルが、仲間に危険を知らせる際に発する音の周波数と、この何とも言えない感覚を伴う甲高い音の周波数が一致するからではないか、という説があるといいます。
私たちの脳の中には扁桃体(へんとうたい)と呼ばれる、様々な情報を処理する場所があります。
私たちが、あの甲高い音を聞いたときに何とも言えないような不快感を覚えるのは、扁桃体(へんとうたい)が、甲高い音の周波数を過去の経験と照らし合わせるなどして、我が身に危険が近づいていると判断し知らせてくれているからとのこと。
この機能が、何かを引っ掻いたときに出る音に無条件に反応し、私たちに不快感や苦手意識を
感じさせて注意を促しているというのがこの説です。
これらの音の周波数は、人の悲鳴や赤ちゃんの泣き声の周波数とも近いため、このような音を聞くと何かあったのではないだろうかと感じるようです。
もちろん人間はサルのままではなく、少しずつ独自の進化を重ねてきたわけですが、先祖の名残は、このような形で私たちの感覚に残っているようです。
推測の域を出ない説ではあるものの、危険を察知するこのセンサーは、どれだけ便利な世の中になったとしても不要になることはないため、こうして残っているようにも思います。
とは言うものの、やはりキィーというこの手の音は苦手である。
窓を閉めても尚聞こえてくるその音に、背中をぞわぞわっと刺激されつつ過ごす午後。
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