古い店構えのお蕎麦屋さんの出窓に、季節の花が飾られていた。
年代物に見えた花器の古めかしさはタイムスリップ感というよりは、現代に程よく溶け込んでおり粋であるようにも見えた。
そして、花器のそばには、小さな張り子人形が数体並べられていた。
張り子(はりこ)人形とは、竹などで人形の輪郭を作り、そこに紙を張りつけて形を作り、最後に中の竹を取り除き再び紙で封をする方法で作られる人形である。
サイズは小さいものから大きなものまであるけれど、中が空洞になっており、見た目に反して軽いこともあってなのか、お土産品として売られていることも多いように思う。
張り子のデザインに使われるものは様々で、私が友人からいただいたものは雪だるまなのだけれど、張り子の一般的なデザインと言えば、
安産祈願や子どもの健康祈願のお守りとして人気が高い犬や、縁起物のだるまや招き猫、頭をゆらゆらと振る赤べこや虎で、誰もが一度は何かしら何処かしらで目にしたことがあるのではないだろうか。
その張り子、古より縁起物として親しまれているのだけれど、「張り子の虎」という言葉がある。
張り子も、虎の張り子も縁起物なのだから「張り子の虎」もさぞかし、粋な誉め言葉か何かなのではと思いがちだけれど、「張り子の虎」という言葉は、いい意味で使われていないという裏の顔がある。
「張り子の虎」の意味を簡単におさらいしておきますと、
張り子の虎が首を振る様子から「人が言うことにただ頷くだけの主体性がない人」や「首を振る癖がある人」という意味があります。
他には、冒頭で触れたとおり、張り子は中が空洞になっている様子から、虎と言えども怖い存在ではない、威厳もないとのことで「能力がないのに虚勢を張る人」という意味も。
「張り子の虎」そのものは縁起物なのに、言葉としては良い意味では使われていない、ちょっと不思議な存在が「張り子の虎」です。
受験勉強中にこのことを知れば紛らわしいと思う気持ちもゼロではないのでしょうけれど、
大人になってから知ると、完璧すぎる存在よりも、長所も短所も持ち合わせている方が何だか魅力的。
そのような気がして張り子の虎を微笑ましく思ったりも致します。
張り子の虎を目にする機会がありました際には、今回のお話をちらりと思い出していただけましたら幸いです。
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