私の前に立っていた子どもたちが、サマーニットに使われるような素材で編まれたベレー帽をかぶっていた。
4、5人の子どもたち全員がお揃いのものをかぶっていたこともあり、何かしらのイベント衣装なのだろうと思った。
ベレー帽の中央には真っ赤なポンポン飾りがついており、子どもたちが動く度に、私の視界の端で赤いポンポンが右往左往するものだから、その赤いポンポンを親指と人差し指でムキュッと摘まんだら……と妙な悪戯心が湧いてしまった。
悪戯心は湧くものの、それを実行に移すだけの度胸を持ち合わせていない私は、しばらく彼らのポンポンを眺めていたのだけれど、随分と古い記憶がふわり、脳内に浮上した。
あれは、フランスの知人宅で1週間ほどお世話になったときのことである。
せっかくだからマルセイユに行かないかと誘われ、行くことにした。
マルセイユはフランス南部にある港湾都市で、古くから交易が盛んな場所だったのだとか。
ここで私は、見ず知らずの人の帽子についている真っ赤なポンポン飾りを触ることとなったのだ。
なんでも、フランスの水兵がかぶっているベレー帽についている赤いポンポン飾りはラッキーモチーフのひとつなのだそう。
だから、この赤いポンポンがついたベレー帽をかぶっている人を見かけたら、「触ってもいいですか?」と聞き、触らせてもらうと良いというのだ。
本当の話だろうかと疑っていたのだけれど、実際に外国の方が触らせてもらっている場面を目にし、本当なのだと思った。
しかし、気乗りしなかった私は、「ほらアナタも」と背中をグイグイ押してくる知人をジャパニーズスマイルで交わし続けていたのだけれど
知人は、私の背後から大きな声で水兵を呼び止め、「触ってもいいですか?」と言いながら私を海兵の前へ差し出したのだ。
きっと、芸能人を前にした親に「握手してもらいなさい」と差し出された子どもの気持ちと大差なかったように思う。
そこまでされたら断る理由はなく、真っ赤なポンポン飾りに数回触れ、幸運のお福分けをいただいた。
どうして、あの赤いポンポン飾りがラッキーモチーフなのか。
それはポンポン飾りの役目にあった。
あの飾りは、おしゃれポイントとして付けられているものではなく、海兵が万が一、海に落ちてしまっても目立つ真っ赤なポンポンのおかげで居場所が分かり、すぐに救助してもらえるという役目や、船内の低い天井に頭をぶつけてしまってもポンポンがクッションとなって頭を守る役目を担うものだというのだ。
そして、そのベレー帽をかぶっている海兵たちは、大きな怪我をせずに航海を続けることができていることから、あの真っ赤なポンポンは、お守りであり、ラッキーアイテムで、触らせてもらうことでご利益をいただけるのだとか。
私にとってポンポンは「飾り」という認識の方が強いのだけれど、この日、もとはお守りであり、ラッキーモチーフであることを思い出すこととなった。
先日も海兵の制服の話題に触れたばかり。
海兵アイテムには興味深い話題が潜んでいるのかもしれないと感じた真っ赤なポンポンである。
※旅先で、ポンポンタッチにトライする際には、水兵さんの真っ赤なポンポンのみですのでポンポンカラーにご注意あれ。
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