その日は、昼間の青が和らいだ空に淡いオレンジ色が溶け込み出した夕暮れ時、500メートルほど続く一直線の道を目的地へと向かって歩いていた。
そろそろ涼しくなっても良い時間帯だったけれど、昼間の熱気が辺りに充満しており、蝉も鳴き止まぬままである。
外に出るだけで脱水症状を引き起こしてしまいそうな残暑だと思いながら小さな雑貨店の前を通ると、額から流れでる汗を拭いながら、雑貨店の軒先で休憩しているご年配の方がいらっしゃった。
このような光景を目にすると、飲み物はお持ちですか?と思ってしまう。
蝉の声を聞きながら歩いていると前方から、一台の自転車が向かってきていた。
乗っているのは小学生くらいの少年だったのだけれど、頭を大きく右へ左へと振りながら自転車を漕ぐ様子に違和感を覚えた。
子どもならではの遊びの類だろうかと思っていると、すれ違い様に「あっちいって虫―」と連呼しているのが聞こえた。
誰もが一度は経験したことがある、小さな虫の大群に襲われているような気分になる、あの状況だと分かった。
いつだったか、「あの虫の大群は、人の血を吸わない蚊の集団だから慌てなくても大丈夫」「蚊柱は自分たちよりも高い位置にあるものの近くへ行こうとする性質があるから、蚊柱よりも低い高さにまで体を落として通り過ぎれば大丈夫」と聞いて以降、
不意に出くわしてしまっても慌てずに、軽くしゃがんで通り過ぎるようになったのだけれど、それでも、気持ちの良い状況ではないことに変わりはないように思う。
あの小さな蚊の大群は、蚊柱(かばしら)と呼ばれている。
囲まれている時には気が付かないのだけれど、大群を抜け出して見返してみると数十センチから1メートルほどの柱状を保ちながら移動していることがあるため、そう名付けられているのだとか。
そして、「蚊柱が立てば雨」ということわざがある。
随分と長い間、このことわざを見聞きする機会が無かったこともあり、記憶の中からは、ほぼ抹消されていたのだけれど、
今回調べてみたところ、蚊は、ちょうど今頃の時季が繁殖期とのことで、産卵に水を必要とする蚊が蚊柱を作っているときには雨が降るのだとか。
しかし実際は、蚊柱は水たまりや湿り気のある場所でも見られるため、雨が降るサイン以外にも、近くに水があるサインだとも言えるようだ。
蚊柱は人に攻撃をしかけてくるわけではないけれど、自分たちよりも高い位置にあるものへ近づく性質があると聞きます。
もし、うっかり蚊柱内に侵入してしまったときには、私が見かけた少年のように頭を左右に揺らして払おうとするのではなく、
大人の余裕でスッと腰を落として通り過ぎることで蚊柱をかわしてくださいませ。
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