ひと息ついでに、マンションのエントランスホールへ郵便物を受け取りに行くと、顔見知りの管理人さんがフロアの一角にしゃがみ込んでいた。
声をかけると、下手な蜘蛛の巣があると言って手招きするものだから、「ん~蜘蛛は苦手なんです」と心の中で呟きながら恐る恐る、下手な蜘蛛の巣とやらを見にフロアの一角へ近づいた。
管理人さんの背中越しに蜘蛛の巣を覗き込むと、管理人さんは、持っていた霧吹きの水をそれに吹きかけた。
蜘蛛によって張られた巣に水滴がつき、全体がくっきりと浮かび上がった。
パッと見たくらいでは、それが下手なのかどうか私には判断できないけれど、下手な蜘蛛の巣だと言われてから見ると、所々が抜け落ちていたり、つなぎ目の場所が大きくズレていたりと、不格好だと言えば不格好な蜘蛛の巣のようにも見えた。
管理人さんの見解を聴いていると、会話を交わしたことはないけれど、確かにここの住人だと互いに認識できている方が加わり、3人でその不格好な蜘蛛の巣を覗き込む事態となった。
その場から抜け出すタイミングを伺っていると、3人目の方が、蜘蛛と呼ばれる全ての蜘蛛が巣を張ることができるわけではなく、あの繊細な巣を作ることができるのは、全体の半分ほどの蜘蛛だけだと切り出した。
じゃぁ、どうやって獲物を捕まえているのだろうかと思っていると、蜘蛛の巣を張ることができない蜘蛛は、地道に周辺を右往左往して何かしらの獲物を捕まえているとのことだった。
蜘蛛と呼ばれるものの全てが蜘蛛の巣を作ることができるわけではないということは初耳で、とても興味深いことではあったのだけれど、
ワタクシ個人の気持ちとしては、その方がどのような経緯で、そのことを知ることになったのか、そちらの方に興味が沸いていた。
蜘蛛の話をしていると、また一人、蜘蛛談義の輪に入ってきたため、私は「今だ!」と静かにその場からフェイドアウトした。
蜘蛛は蜘蛛の巣を張ったあとは、獲物が巣にかかるのを寝て待つばかりだと思っていたのだけれど、約半数の蜘蛛は地道に動き回って獲物を捕らえていると知り、蜘蛛の世界も甘くないのだなと思った。
そして、巣を張ることができる蜘蛛の全てが、キレイな六角形の巣を張ることができるという訳でもなさそうなところを見るに、蜘蛛の世界にも器用、不器用があるのかもしれない。
世の中、知らないことだらけ。そう思った出来事であった。
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