私のスケジュール管理はデジタル版とアナログ手帳のダブル使い。
それぞれにぞれぞれの良さと譲れぬ便利さがあり、もう長い間、このスタイルである。
どちらか片方しか選ぶことができないと言われたら、どちらを選ぶだろうかと考えたことがあるけれど、そうなると私は迷わずアナログ手帳を選ぶように思う。
手軽で身軽に居ることができ、アナログ手帳のように扱えるデジタル手帳も日々使ってはいるけれど、何だろう……、ここから先は機能性とは別の場所にある、個々の「好み」の領域ような気がしている。
デジタル手帳が登場し、機能性も年々アップしていく流れを目に、手にしながら、いつかアナログ手帳は無くなってしまうのだろうかと脳裏を過ったこともあったけれど、心配損であった。
きっと今年も、来年の手帳コーナーが至るところに設けられ、真剣な眼差しを手帳選びに向ける人々の光景を目にするに違いない。
やはり古くから紙は神に通じていると言われていることが、人々のどこかしらに刻まれているのだろうか、と思ったりもする。
そのようなことを思いつつ手帳を捲っていると、雑記ページに「秋になったら酢橘ごはん」と走り書きしてあった。
何でも書き記しておく癖があり、後で見返したとき、自分でも何のことだったのやらと着地点を見失うことも少なくないのだけれど、これを書いたときのことはよく覚えている。
季節は、街中がクリスマスディスプレイに彩られていた頃、電車に乗っていたときのことである。
隣に座っていた2人組の女性たちの会話が耳に入ってきた。
2人は食事へ向かう途中だったようで、出てくるであろうメニューへ期待を膨らませているようだった。
いつしかその話は、自宅で食べる秋から冬にかけて登場する美味しいものへと移り、そこに登場したメニューが「酢橘(すだち)ごはん」というものだった。
旬を迎えた酢橘(すだち)で食べると満足度がアップするらしいことや、酢橘(すだち)ごはんを食べると秋が来たと感じるという話、手軽に入手できる酢橘(すだち)果汁を使うのではなく、まずはあの旬の果実を使って食すべきだ等々。
語り部向きだと感じる話し方をする女性の話術によって、私の想像は大きく膨らんだのである。
安易に、帰りにスーパーで酢橘(すだち)か酢橘(すだち)果汁でも買おうと思っていた私は、そこまで聞こえてしまってはと、次のシーズンを待つことにし、手帳に走り書きしたのである。
そして、季節は巡り、再び酢橘(すだち)の旬がやってきた。
炊きたての、ふっくらツヤツヤした白米に半分にカットした酢橘(すだち)をキューッと絞りながら適量をまわしかかける。
ここに、胡麻と鰹節を散らしていただく「酢橘(すだち)ごはん」デビューである。
酢橘(すだち)の酸味がクセになる、爽やかな秋ごはんといった印象を受けた。
私は、少量のお醤油と浅葱も乗せたいと感じたのだけれど、ここまでしてしまうと、あの語り部向きの女性に「邪道です」と言われてしまいそうな気がしてしまった。
数日後、この酢橘(すだち)ごはんは徳島県ではメジャーな一品だと目にしたのだけれど、生憎、私の周りには徳島県人がおらず、この点は未確認ではあるけれど、美味しい酢橘(すだち)を食す機会が多い地元の方々は、様々な美味しさをご存知なのだろう。
次に酢橘(すだち)を入手した際には、秋刀魚に添えた酢橘(すだち)の半量の果汁は秋刀魚に、残り半量はごはんにという楽しみ方も出来そうだと、ワクワクしているところである。
通年で入手できる酢橘(すだち)ですが、最も香り高い酢橘(すだち)は、旬真っ只中の今なのだそう。
お嫌いでなければ、いつもと少し異なる味わい方ができる「酢橘(すだち)ごはん」で、残暑疲れを爽やかな香りで吹き飛ばしてみてはいかがでしょうか。
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