電車の向かいの席に座っている方が、目を閉じた状態で腕組をしていた。
どこにでもある光景のひとつなのだけれど、どういう訳だか目を閉じていて気付かれないことをいいことに、しばらくの間、その姿を眺めてしまった。
停車駅が近づいたことを知らせる車内アナウンスのメロディーにハッとし、向かいの方に気付かれないよう私自身、静かに目を閉じた。
次に私が目を開けた時には、目の前に居たはずのその方の姿は無く確認することはできなかったけれど、私が視線を奪われた理由は、その方が放っていたアルカイックスマイルではないかと思った。
アルカイックスマイルとは、歯を見せない状態で左右の口角をきゅーっと吊り上げた口元をした表情のことで、古代ギリシャ時代の彫刻像に見られる表情のことだ。
目や頬などは動かさず、そこだけを見ると無表情にも見えるのだけれど、口元の左右の口角をきゅっと上げただけで、とても優し気な明るい表情に見えるのだ。
この表情は日本の仏像にも見られるのだけれど、人に良い印象や安心感を与える万能薬のような表情としても知られている。
他にも、笑顔のパターンはいくつかあるのだけれど、日本人に最も似合う笑顔は上の歯のみを8本ほど見せる笑顔で、これはフルスマイルと呼ばれている。
この笑顔を見る機会が多いのは、日本人向けコスメ用品のポスターに使用されている日本人のモデルさんの笑顔なのだとか。
ついポスターの笑顔につられて口紅やファンデーションを購入してしまったという経験をお持ちの方も多いかと思うのだけれど、これは、モデルさんの素敵さと商品がピッタリと合っていること以外にも、日本人に最も似合う笑顔を見せられているため惹かれてしまうというカラクリもあるようだ。
しかし、このフルスマイルをキープするのは想像以上に難しいのである。
試しに、鏡の前でトライしていただくと実感できるかもしれないのだけれど、理由は、フルスマイル―をキープするにはお顔の筋肉がしっかり鍛えられていなければいけないというもの。
お顔の筋力が落ちると、表情が乏しくなったり、何となく近寄り難い印象を与えるといいます。
とは言っても、四六時中フルスマイルでいるのも周りに違和感を与えてしまいますので、基本にする笑顔はアルカイックスマイルが良いのだそう。
そのような話を思い出し、その時、電車内で視線を奪われた方の表情を改めて思い返すと、やはりお手本のようなアルカイックスマイルだったように思う。
ちなみに、上の歯のみを10本ほど見せる弾けるような笑顔、満面の笑みはハリウッドスマイルと呼ばれているのだとか。
疲れて表情筋までも省エネスタイルで過ごしたい日もありますけれど、
口角だけはキューッと上向きアルカイックスマイルで過ごしてみてはいかがでしょう。
優しい笑みが潤滑油になり、ハッピーの連鎖が始まるように思います。
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