ダサいという印象を払拭し、機能性とおしゃれさを兼ね備えたものが増えた証拠だろうか。
すれ違った女性たちの会話から「冬用のステテコ」という声が聞こえた。
人に見せるものではないし、色香や艶を求められるアイテムでもないのだから、機能性とおしゃれさがあれば御の字アイテムではあるのだけれど、私はどうしても自分の気分が上がらないことを理由に、手に取らぬままである。
冬用のステテコかとぼんやりと思いながら歩いていると、私がそのように感じるのは、いつだったか、仕事の打ち上げと称された食事会の場で、思わぬ光景を見てしまったからだろうかと遠い日の記憶がじわじわと浮かび上がってきた。
多忙からくる疲労とひと仕事を終えた安堵感から、お酒を飲み過ぎてしまったのか、普段よりも早く回ってしまったのか、その中の一人が、妙な、いや、ここは「滑稽な」と言っておこう。
滑稽な踊りをステテコ姿で始めてしまったのである。
踊りは、何かしらのハラスメントに引っかかってもおかしくないようなものにも見えたけれど、その場が笑いのみで収まったのはその方の人徳だったように思う。
その、滑稽な踊りの際に発せられていた言葉が「ステテコ、ステテコ、ステテコ」というものだった。
もう、どのようなメロディーだったかまでは記憶にないけれど、動きと言葉が相まって衝撃的かつシュールな時間となった。
私は勝手にステテコを履いているから「ステテコ」と連呼していると思っていたのだけれど、当時隣に居た方に、
あれは一見、妙な踊りに見えるけれど、明治時代に流行ったと言われている「ステテコ踊り」という芸事を彼なりに再現しているのだと思うという解説をいただいたのである。
安易に羽目を外し過ぎているのではなく、そのようなものがあることや背景を知っての一芸だったと知り、酔っ払いだのハラスメントだ何だのと思ってしまったことを少しだけ申し訳なく思ったという出来事である。
その後、私なりに調べてみると、明治時代に半端丈のモモヒキ姿で「ステテコ、ステテコ、ステテコ」と言葉で拍子をとりながら踊る「ステテコ踊り」が流行っていたことや、落語の寄席の場でも取り入れられて話題になっていたことなどが分かった。
ステテコは時代によって、その愛され方が異なるアイテムなのだと感じるとともに、当時のあれこれを思い出しながら、あの方はお元気だろうかと思った日。
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