商用施設内に設置してあるベンチ。
ここでは、様々な方々の、ちょっとした日常を垣間見る機会が多い。
メインから少し距離をとった場所に設置してあるからなのか、休憩場所という雰囲気がそうさせるのかは分からないけれど、素の姿ややり取りが出やすい場所のように見える。
私は、休憩場所というよりは、手荷物を整理する際に使わせていただくことが多いのだけれど、先日の先客は老夫婦だった。
お二人とも小柄で穏やかな表情を浮かべながら、ちょこんと腰掛けていらっしゃったものだから、思わず共白髪人形や高砂人形を連想した。
いつものように荷物を小さくまとめていると、隣から「もう少しお水は飲まなくちゃダメよ」とご婦人の声がした。
男性は、薬は流し込めたから水は足りてると言いながらペットボトルのキャップを閉めているところだった。
何だか微笑ましいやり取りだったけれど、私もご婦人の指摘に一票、そう思った。
以前、医療従事者の方々とお話をしていたときのことである。
多くの方が無意識に、薬を飲むときのお水は、薬を飲み込みやすくするためのもの、薬を胃へ流し込むためのものという認識を持っているようだという話題があった。
もちろん、そのような役目も担っているお水なのだけれど、他にも、薬をしっかりと溶かして効率よく薬を体内に吸収させる目的や、薬が食道や胃全体に直に触れることによる刺激から食道や胃を守る目的。
他にも、ゼラチンを使ったカプセルは、少量の水分だとベタベタしてしまうけれど、このような状態の薬が食道や胃の一部に貼り付くと、
その貼り付いた場所で集中的に溶け、食道や胃壁の一部分にダメージを与えてしまうことも考えられるため、この状況を防ぐ目的などもあるとのこと。
薬も進化しているので、少量の水でもしっかりと溶けるよう作られているとは思うのだけれど、体内の様子を逐一確認することはできないため、念には念をということなのだろう。
少し落ち着いて想像してみれば分かることなのだけれど、飲むことに集中していたり、時間に追われていたりすると、つい少量のお水で薬を飲み込んでしまうという方が多いという。
そして稀に、水なしで飲むことができるチュアブルタイプのお薬でないにも関わらず、「私は水なしでも薬を飲むことができる」と自慢げに仰る方や、
ご年配の方の中には、水分でお腹がちゃぽちゃぽになるのを避けたくて、薬を少量のお水で飲むという方もいらっしゃるのだとか。
お薬やサプリメントを口にする際には、十分なお水でしっかりと体内へ運び入れて、安全かつ効率良く必要な箇所へ届くよう、癖付けしておくと何かと安心という話である。
そのようなことを思い出したものだから、私はご婦人の指摘に大きく賛同していたのだけれど男性は、にこやかな表情で「大丈夫、大丈夫、心配ない」と返していた。
その素敵な笑顔で言われたら、もう何も言えないじゃないかと思ったけれど、やはり奥様はお強かった。
「子どもみたいなこと言わないで飲んでください。」ともうひと押し。
すると、男性は閉めたばかりのキャップをゆっくりと捩じ開けはじめた。
ベンチある場所に日常の欠片あり、である。
お薬やサプリメントを口にする際には、今回のお話をちらりと思いだしていただけましたら幸いです。
あ、もちろん、ご夫婦のやり取りではなく、お薬やサプリメントは十分なお水で飲むことという部分でございます。
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