幸せのレシピ集

cawaiiとみんなでつくる幸せのレシピ集。皆様の毎日に幸せや歓びや感動が溢れますように。

茶の花香よりも大切なもの。

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約束の時間よりも少しだけ早く到着した私に、お店の方が日本茶を淹れてくださった。

その日は、暖房のスイッチを押すか否かで迷うような朝から始まり、日中もひんやりとしていたため、冷えた体にじんわりと広がっていくお茶の温かさはとても有難かった。

ほどよく立ちのぼる湯気は肉眼でもしっかりと捉えることができ、また少し季節が次へと進んでいることを実感した。

嬉しかったのは、私好みの少し濃い目の日本茶だったこと。

丁寧に淹れてくださったお茶の温かさが足の指先まで達した頃、「お好みの濃さに近いお茶に仕上がっていましたか?」と聞かれ、どうして私の好みを知っていたのだろうかと不思議に思っていると、私の表情からそれらを読みとったのだろう。

お店の方が、随分と前の会話で、お茶の好みを話したことがあるからだと種を明かしてくださった。

もちろん、私ひとりの事に集中しているわけではないだろうから、門外不出のあんちょこに書き添えられていたのかもしれないけれど、

私の方はすっかりと忘れてしまっていた、何気ない会話だったにも関わらず、記憶に留めてくださっていたことが嬉しく、お茶と一緒に素敵なおもてなしをいただいた時間となった。

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用事を済ませてお店を出たあと、冷たい風と柔らかい陽射しを顔に受けながら、茶の花香より気の花香 (ちゃのかこうよりきのかこう)ということわざを思い出した。

日本には、お茶に関することわざが多々あるけれど、私が勝手に、その中でも素敵なことわざだと感じているものがこれである。

意味は、お客様をおもてなしするときには、香りが良いお茶を出すことも、もちろん大切なことなのだけれど、それ以上に、心を込めて丁寧にお迎えすることが大切で、

そこを怠らなければ、たとえ粗茶しか出すことができないときでも、おもてなしの気持ちはしっかりと相手に伝わり、喜んでいただけるというものだ。

様々な場所でお茶を出していただく機会があるけれど、経費削減のこのご時世、高級茶葉を取り揃えているような場所は限られている。

純粋に茶葉の良し悪しだけでお茶の美味しさを判断するならば、高級茶葉を使って淹れられたお茶の方が、そうでない茶葉を使ったお茶よりも美味しいということになる。

しかし、お茶は奥深いもので、そうではない茶葉でも少し淹れ方を変えるだけで段違いに美味しくなるし、高級茶葉を使って淹れたお茶も雑に淹れてしまえば、本来の美味しさが十分に出ないということは良くあることだ。

自分にできるのはこれくらいだと思って動くときと、自分にできる精一杯でと思って動くときは、きっと、何かが違ってくるのだろう。

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茶の花香より気の花香 (ちゃのかこうよりきのかこう)は、お茶のことわざではあるのだけれど、お茶に限らず、様々なシーンに置き換えることができるように思えて記憶に残っている。

そして、このことわざを思い出したときには、自分の近況を振り返りながら少しばかり背筋が伸びるのである。

『茶の花香より気の花香 (ちゃのかこうよりきのかこう)』

素敵なおもてなしをいただいて、そのようなことを思った日。

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