入用な品を購入するためにデパ地下へと向かった。
常に賑わっている空間だけれども、年末が近づくにつれて、人も賑わい方も増していく場所のひとつだ。
私は完全にお客側目線なのでテンションも右肩上がりなのだけれど、スタッフの皆さんは裏側で忙しさや疲労と日々闘っていらっしゃるのだろうと思いながらショーケースを覗き込んだ。
入用な品を買い終えてホッとした気分の中覗き込んだのは、ひと口サイズのシンプルさが美しいチョコレートだ。
チョコレートは好きなスイーツのひとつなのだけれどワタクシの場合は、少量で十分に満たされるようで、自分のために購入するのは年に数回、片手で数えられるほどである。
もちろん、お土産や贈り物でいただいたときには喜んで、美味しくいただくのだけれど、私にとってチョコレートは、旬のお野菜やフルーツのような位置づけに似ているのかもしれない。
ストールやニットの温かさに幸せを感じる季節に、温かい飲み物と一緒に至福の一時を彩ってくれるひと粒である。
バレンタインデーのチョコレートを自分や友人のために購入するようになった世の中の流れから、近年、日本で購入できるチョコレートのバリエーションも随分と豊富になったように思う。
選択肢の幅が広がり嬉しいことに変わりはないのだけれど、私は密かに、ガナッシュと生チョコは何が違うのだろうかと疑問に思っていたことがある。
作り手によって材料の扱い方や配合などが変わってくるのは当然のことなのだけれど、温めた生クリームにチョコレートを溶かすという作り方の土台は同じはずなのに、呼び名が異なっているのはどうしてだろうかと。
すぐに調べれば良かったのだろうけれど、この時はそのような気持ちが湧かず、ガナッシュや生チョコを口にする度に、何が違うの?と思うに留まっていた。
しかし、その時は不意に訪れたのである。
「分かりやすく言うならばガナッシュを固めたものが生チョコだ」という説明を見聞きし、それはそれはすっきりとしたあの日。
それ以降は、店頭でガナッシュや生チョコという表記を目にしても、その時の自分好みをスムースに選ぶことができるようになったように思う。
それからしばらくしてのこと。
今度は、ガナッシュの語源が不意に私のもとにやってきた。
「ガナッシュ」はフランス語で、その意味は日本語で言うならば「のろま」や「間抜け」と訳されることが多い。
そのようなネガティブさを含んだ言葉で呼ばれているガナッシュの背景は、こう。
見習いショコラティエが作業中に誤って、温めた生クリームをチョコレートに注ぎ入れてしまったのだそう。
すると、師匠であるショコラティエに「この間抜けが!」「この馬鹿者が!」と叱られたのだけれど、失敗作のチョコレートクリームがとても美味しくて店頭に並ぶことになり、
このように温めた生クリームにチョコレートを溶かして作られたチョコレートクリームのことを「ガナッシュ」と呼ぶようになったのだとか。
お客様にお出しする商品に、「のろま」「間抜け」といった言葉を選ぶだろうかという疑問が私の中には地味に残っているけれど、程よいインパクトを持ったガナッシュエピソードは、ガナッシュという言葉の意味と、ガナッシュがどのようなものなのか、私の記憶にしっかりと定着してくれることとなった。
これからの時季は、チョコレートを口にする機会も増えるかもしれませんね。
ガナッシュや生チョコを口にしたり目にする機会がありました際には、今回のお話の何かしらをちらりと思い出していただけましたら幸いです。
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