私の手元にあるメモ用紙には、杓文字を両手に持ち、その両手を空に向けて突き上げた人が笑顔で立っているキュートなイラストが描いてある。
白米が美味しいことを表現するために杓文字を持たせているのか、そもそも手にしているそれが杓文字なのか、正解は分からないのだけれど、そのイラストは私のお気に入りだ。
しかし先日、これはマーシャラーを描いたものなのではないだろうかと思ったのである。
マーシャラーとは、空港でマーシャリングと言う仕事をしている方々のことだ。
飛行機は着陸した後、駐機場へと向かうけれど、駐機場の決められた場所へ飛行機を誘導している方が、マーシャラーだ。
国内機であれば、着陸する様子や着陸後の様子が機内モニターに映し出されることがある。
ゴンドラのようなものに乗って、両手を大きく動かしながらパイロットに指示を出している方の姿を目にしたことがある方もいらっしゃるのではないだろうか。
そのマーシャラーにも見えるイラストの上は「親切にしてくれてありがとう」と綴られている。
少し前に、割と近くに住んでいるのだけれど、予定が合わず、気が付けば1年振りとなる友人に会うことになり待ち合わせ先へと向かっていたときのことだ。
駅のホームで電車を待っていると、背後から肩を2回、トントンと叩かれた。
振り返ると、大きなスーツケースを携えた外国人女性が、笑顔でスマートフォン画面を突き出してきた。
何ごとだろうかと思って画面を覗き込むと、「この電車は○○駅へ向かう電車ですか?」と記されていた。
彼女の質問に答えながら、こうして着々と言葉の壁は世の中から無くなっていくのだろうと思った。
言葉の壁が無くなったからと言って、全ての風通しが良くなるということではないのだろうけれど、そうなるための一歩にはなるのかもしれない。
そのようなことを思いながら、ホームに入ってきた電車に外国人女性とともに乗り込んだ。
その後は、目的の駅まで各々の時間を過ごしていたのだけれど、外国人女性が降り際、「親切にしてくれてありがとう」と書かれたメモ用紙を私に手渡し、笑顔で降りて行ったのだ。
これが冒頭で触れた、マーシャラーに見えるイラストが手描きしてあるメモ用紙である。
メッセージはきっと、翻訳機能に記された文字を揺れる車内で真似たものだろう。
そう推測できたのは、「親切」という文字が記号かと見紛うような出来栄えだったから。
マーシャラーとシンプルなメッセージ。
風がとても冷たかったその日、言葉の壁の向こう側から温かいものが流れ込んできた気がした。
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