イベント会場と化した学校内から威勢の良い掛け声が聞こえてきた。
学校の前を通りながら中の様子を窺うと餅つきが行われていた。
すっかり目にする機会が減った餅つきの様子に久しぶりに年の瀬らしい年の瀬を感じたような気がした。
大人の事情による、年内に終わらせておかなくてはいけない諸々に追われる中で感じる年の瀬とは異なり、このような空気の中で感じる年の瀬には、力が漲ってくるような心地よさがある。
餅つきは準備や後片付けまでを思うと、それなりの気合いと労力を要するけれど、無くならないで欲しい光景のひとつのようにも思った。
そのようなことを思いつつ歩いていると、会場内から「けんちん汁」を振舞っているというアナウンスが聞こえてきた。
それなりに冷え込んできたこの時季に外で口にする熱々の汁物は、さぞ美味しく感じられることだろう。
いつでも、どこでも、快適な温度の中で過ごしていたいというのが、ズボラな私の本音なのだけれど、冬の冷えた体にじんわりと広がっていく温かさや、夏の熱い体に広がっていく飲み物の冷たさを感じると、生きているという感覚がダイレクトに伝わってくるものだから、たまにはこのような感覚も味わうのも悪くない、と思ったりもする。
そうそう、ワタクシ、「けんちん汁」と聞くと「豚汁の豚肉抜きバージョンのことね」と思っていたことがある。
しかし、いつだったか栄養士の資格を持つ知人との会話の中で、それが豚汁の豚肉抜きバージョンではないことに気が付いたのだ。
「けんちん汁」は、神奈川県にある建長寺というお寺の修行僧が振る舞った精進料理が始まりなのだとか。
この精進料理は、「建長寺汁、建長汁」などと呼ばれていたそうなのだけれど、いつしか発音が訛り「けんちん汁」と呼ばれるようになったという説ある。
この説が、あまりにも広く知れ渡っているため、これを定説だと思っている方も多いけれど、「けんちん汁」の発祥を辿ると、
もともとは中国から入ってきた精進料理だったそうなので、この辺りに名前の由来があるという説もあり、「建長寺汁、建長汁」が「けんちん汁」になったとは言い切ることはできないのだそう。
それでも、このお寺が発祥の汁物なので、私個人の思いとしては、「建長寺汁、建長汁」が「けんちん汁」になったという説でもいいじゃないかと感じていたりする。
そして、「けんちん汁」と「豚汁」の違いなのだけれど、
「けんちん汁」は、まずはじめに大根やごぼう、人参などの野菜、豆腐や蒟蒻などをごま油で炒め、注ぎ入れるお出汁は、精進料理ということもあり鰹を使用せずに昆布やしいたけから取ったものを使う。もちろん、豚肉を使用することもない。
十分に煮込んだら、最後に醤油で味を調えて、おすましに仕上げるというのが一般的な「けんちん汁」なのだそう。
ただ、地域やご家庭によっては、醤油ではなく味噌で味を調えることもあるようなので、この辺りが、私を含めて、「けんちん汁」と「豚汁」を同じ料理だと思っている方がいる理由のひとつのようだ。
各地域に伝わる汁物を味わうも良し、この機会に本来の「けんちん汁」を味わうも良し、お肉も入っていなくちゃテンションが上がらないという方は豚汁を味わうも良し。
寒さが身に沁みるこの時季は、温かい具だくさんの汁物が、より美味しく感じられことかと思います。
年の瀬の忙しさに追われている感覚を少しの間、横に置き、今夜のお夕食にお好きな汁物を一品、いかがでしょうか。
その折には、今回の「けんちん汁」と「豚汁」のお話などもちらりと思い出していただけましたら幸いです。
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