キッチンツール売り場で探し物をしていると、「あたりばちは無くてもいいんじゃない?」「あたりばちはいるでしょ」と、母娘であろう女性たちの声が聞こえてきた。
「あたりばち」とはなあに?
お目当てのものに出会うことができず、その場を離れようとしていた私は、気持ち遠回りをして二人の背後から「あたりばち」なるものを覗き見してから立ち去ることにした。
そのときに見えたものは、昔ながらの「すり鉢」だった。
外側はミルクチョコレート色をしており内側はホワイトチョコレート色をしたアレである。
その親子は、すり鉢のことを「あたり鉢」と呼んでいたけれど、その呼び名は方言か、商品名なのか、初めて耳にした言葉だったため、一息ついでに調べてみることにした。
今回は、そのようなお話を少しと思っております。
ご興味ありました際には、ちらりとのぞいていってくださいませ。
私は、生まれてこの方「すり鉢」は「すり鉢」と呼んできたし、それ以外の呼び名を知らずに過ごしてきたのだけれど、「すり鉢」は忌み言葉とのこと。
忌み言葉とは、簡単に言うならば縁起がよろしくない言葉という意味で、冠婚葬祭の場で使用を控えた方が良いとされている言葉なども忌み言葉である。
どうして「すり鉢」が「あたり鉢」に変化しているのか。
「する」という言葉が「スリ」や賭け事なのでお金をスル」といったことを連想するとして、「すり」の部分を縁起が良い「当たり」に変えて「あたり鉢」なのだそう。
他にも「スルメ」のことを「あたりめ」と呼ぶことがある。
所説あるようだけれど、スルメは消費期限が長い食べ物なので、幸せが末永く続く(続きますように)という意味でお祝いの席で使いたいけれど、すり鉢と同じく「スリ」や賭け事でお金を「スル」ということを連想してしまうから、それならば「スル」の部分を「当たり」に変えて「あたりめ」と呼ぶようになったという話がある。
「すり鉢」を「あたり鉢」と呼ぶのは、この辺りの話と同じ考えからきているとみられているようだ。
先人たちは、日本のことを「言霊の幸わう国(ことだまのさきわうくに)」と呼んでいたと言うけれど、私たちがあたり前のように使っている言葉をのぞいてみると、
先人たちの思いや、縁起が悪いものは自由に変えていこうという柔軟な思考に触れることができるように思う。
「すり鉢」と「あたり鉢」。
日常生活でどちらの呼び方をしても問題が起こるわけではないのだけれど、「あたり鉢」という呼び名を何度も口にしていると、「すり鉢」よりも柔らかい言葉に感じられるような気がしたりもして。
病は気からではないけれど、使う言葉、発する言葉で変わる何かもあるように思う。
だってここは、「言霊の幸わう国(ことだまのさきわうくに)」だから。
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