片付け忘れていたお正月飾りの打ち出の小槌に気が付いたのは数日前である。
飾っていた空間に馴染みすぎていたのだとしても、艶やかさをもったそれを見落とすなどあるだろうかと、狐につままれたような気分になった。
せっかくなので小槌をひと振りし、「また年末に」と告げて片付けた。
小槌と言えば、いつぞやかの催事場で目にした光景を思い出す。
「匠の会ひねもす」に在籍していらっしゃる口上師の方々だ。
「匠の会ひねもす」は、日本の伝統文化を守り発展させようという思いのもと、縁起物の根付けや、ポチ袋、音色玉などの商品販売を行っているところで、様々な催事場や劇場でこちらの商品を目にする機会がある。
その商品の中には、開運の小槌と呼ばれる小さな小槌型の根付けがあるのだけれど、口上師の方々が、お客さんの目の前で、聞き入ってしまうような口上を述べながら、この小槌を作り上げてくださるのだ。
この小槌の根付けは、小槌の中に米粒よりも小さな10種15個の吉祥モチーフを入れて完成する。
神社のお御籤の中には、金色をした小さな小判やカエルなどがお御籤の中に入っているタイプのものがあるけれど、あの小判やカエルを更に小さくしたようなものが10種15個、小槌の中に入るとイメージしていただくと良いかと。
口上師たちは、この吉祥モチーフそれぞれが持つ意味を、メロディーを口ずさむかのように説明しながら、器用に小槌の中に詰め込んでいくのだ。
その説明、口上は、恵比須様は、金運財運の神様だから入れておきましょう。
大黒様は、五穀豊穣の食べ物の神様だから、一生食べ物に困らないように入れておきましょう。
この恵比須様と大黒様を一対とすると家内安全、商売繁盛にもつながりますだとか、ひょうたんは6個でないと意味がなく、6個合わせて無病箪、無病息災となるだとか。
小さな赤い玉は南天の実を模ったもので、これを小槌に入れる際には難を転ずる、悪いものが近づいてこないようにという意味があること。
サイコロは、どう転がしても落としても目が出るため、どのようなことをしても物になるという意味があるから入れておきましょうというようなもので、華麗な指先捌きを眺めながら、真剣に聞き入ってしまうものだ。
こうして、10種15個の縁起物を詰め込んで封をし、開運の小槌と呼ばれる根付けが完成する。
作っていただいた縁起ものの「開運の小槌」は、願いをかけて持ち歩くと、小槌が揺れる度(振る度)に願いに近づくのだとか。
そして、もし万が一、願いが叶う前に小槌の封が開き中身が落ちてしまったら、縁起が悪いと感じてしまうかもしれないけれど、これは何かしらの形で願いが叶ったか、災難を逃れた印とみるのだそう。
今では、催事場や何かしらのイベントでしかお目にかかれない光景だけれど、江戸時代には、こういった光景が至る所で見られ、今とは違う賑やかさがあったようだ。
春はお財布を新調するのに適した時季だと言われており、それに合わせて根付け販売のイベントが行われることも。
もし、お出かけ先で口上師の声に気付かれました折には、足を止めて口上と匠の手捌きを楽しんでみてはいかがでしょうか。
※動画をお借りしましたので、どのような雰囲気なのか、ご興味ある方はこちらからどうぞ。音が出ますので、閲覧環境にご注意ください。
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