幸せのレシピ集

cawaiiとみんなでつくる幸せのレシピ集。皆様の毎日に幸せや歓びや感動が溢れますように。

想像力はどこまでも自由である。

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開封するのを楽しみにしていた海苔を箱から取り出した。

漆黒とは少し違うけれど、真黒な海苔からは磯の香りがした。

キッチンのライトに透かして見ると真黒の奥にある茶褐色が光に照らされて、半貴石のような色を放った。

半貴石(はんきせき)というと、頭に付けられている「半」の言葉がそう思わせるのか、偽物の石、宝石ではないものというイメージを抱く方がいらっしゃるのだけれど、貴石(きせき)も半貴石(はんきせき)も天然石であることに変わりはない。

天然石がどちらに分類されるのかという点も、国や人によって異なるため、明確な分類はないと言われているのだけれど、多くの方が貴石だと思っている石は、世界の四大宝石と呼ばれているダイヤモンド、サファイヤ、ルビー、エメラルドである。

ここに、翡翠やオパール、その他の宝石などが加えられることもあり、やはり分類に正確な答えなど無いのだけれど、ざっくりと分類するならば、希少性が高く、輝きや美しさなどが際立つ石を貴石、それ以外を半貴石と呼んでいるように思う。

海苔の味わい深い茶褐色部分も十分に艶めいていたのだけれど、このような宝飾界の暗黙のルールに当てはめてみると、やはりその色は半貴石のようであった。

この海苔を火の上で軽く炙ると、真黒い海苔はキレイな緑色に姿を変え、キッチンに、よりしっかりとした磯の香りが広がった。

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私が外国で暮らしていた時、本場の日本食でホームパーティーを催してくれというリクエストを度々いただいた。

そこが日本であれば、お安い御用なのだけれど、日本食を作るための食材調達が非常に困難な上に、奮発したところでお値段に見合った食材が手にはいるわけでもないことが毎度の気がかりであった。

いつだったか、日本から送られてきた貴重な海苔を使って手巻き寿司パーティーを開催した。

生で口にできるような鮮魚は手に入らず、具材は火を通したものばかりになったけれど、好きな具材を好きに巻いて食べるというスタイルはイベント感もあり、来客ウケが良かったように思う。

しかし、「これに巻いてね」とテーブルに置いた海苔を、初めて目にした彼らは、分かりやすく眉間にシワを寄せたのである。

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既に、感情を分かりやすく顔に出す彼らに慣れていたこともあり、今回は何かしら?と思っていると、ある知人が、この黒いものはNORI(ノリ)って言うんでしょ?と口火を切った。

そして、「確か魚の皮を剥いで真黒になるまで焼いたものなんだ」と知った風に周りの人たちに説明するのである。

すると、それを聞いた別の人が「いやいや、それは魚の皮じゃなくて蛇の皮を薄く延ばして焼いたものだよ。」とこれまた日本ツウであるような顔で言うのだ。

何処で何をどう聞いたらそうなった!?と突っ込みたくなるようなことが次々に出てくるので、しばらくの間、その全てを楽しく拝聴し、満を持して「これは海の中にある海藻を使って作られた、とてもヘルシーな食材です」と説明した。

客人の注目を浴びながら手巻き寿司のデモンストレーションをし、最後にパリッと海苔のいい音を響かせてお寿司を口に入れて見せた。

その後、私の貴重な海苔は、みるみるうちに彼らの胃袋に入っていったのである。

海苔について、ヘルシーで健康にも良いと説明したからか、女性たちからは海苔を食べれば日本人みたいにスリムになれるのかしら?と尋ねられたこともあった。

海苔を食べたくらいでは……と思ったけれど、様々な説明に疲れていた私は「海苔を食べたらスリムになれる」と言ってしまったことを今更ながら思い出した。

随分と誇張してしまったけれど、当たらずとも遠からずの範疇だったということで、許してもらえたらと当時を振り返りながら、その日は海苔を炙った。

それにしても、魚の皮だとか蛇の皮だとか、想像力はどこまでも自由である。

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