ベランダから下を見下ろしていると駐車場で黒い塊が動いたような気がした。
目を凝らすと、2匹の黒猫が、アスファルトに体を擦りつけるようにして転がりながら日光浴を楽しんでいた。
遠目からでも気持ちよさそうに転がっていることが分かり、微笑ましく思った。
黒猫と言えば、世界中には黒猫にまつわる様々な迷信がある。
迷信は、人間の戯言のようにも思うけれど、時代や国民性などの様々が反映されており、興味深いものでもある。
今回は、そのようなお話を少し。
ヨーロッパに残る黒猫の迷信は国によって異なっている。
例えば、イギリスで黒猫は幸運を運ぶラッキーキャットと言われており、黒猫を見かけたり、黒猫が家の敷地内に入ってくるなどすると、これから起こるであろう「いいこと」を楽しみにするのである。
ラッキーモチーフとして扱われているので、黒猫をあしらったものを目にする機会もそれなりにあり、様々なお祝いの席で、黒猫モチーフのものを贈ることがあった。
ご利益には、夫婦が末永く仲良く暮らすことができるだとか、子宝や財運、健康に恵まれるといったようなものが挙げられている。
だから、黒猫が家の庭に迷い込んできたときなどは、少しの食べ物を振る舞うと、いつの日か、その猫がお礼として幸運を届けてくれるとも言われているという。
私が仲良くさせていただいていたイギリス人老夫婦の庭先には、黒猫と黒猫が連れてくる猫トモ専用の小さな器が置いてあった。
このようにラッキーキャットとして見る国がある一方で、イタリアやスペイン、ドイツなどでは不吉なことを知らせる者という迷信があり、迷信には国の歴史が深く関わっているように思う。
そして日本はどうなのかと言うと、所説あるのだけれど、世界とは少しばかり異なるのである。
日本ではもともと黒猫は縁起物として扱われていたという。
真黒な身体が厄除けに繋がる小豆で作られた餡子、お祝いの席で口にする縁起物の餡子に似て見えたことから、幸運を運んできてくれるという説。
黒い身体に映える目を持っている様子から、暗闇と表現される困難な時にも周りや先を見る目を持っているため、困難を乗り越える力を与えてくれるという説。
この他にも病を遠ざけるだとか、商売を繁盛させて財運を引き寄せるといった説まである。
しかし、日本には黒猫が目の前を横切ると不運に見舞われるという迷信を耳にすることもある。
これは、何か不運に見舞われるということではなく、先ほど挙げたような、幸運を運んできてくれる縁起物である黒猫に見向きもされるまま素通りされるということは、それらの幸運が素通りしたも同然ということから、黒猫を「不吉」とする解釈が生まれたようなのである。
また、国外から黒猫の不吉に繋がる迷信などが伝わてきたことなども、大なり小なり影響しているようで、日本には黒猫を縁起物とする迷信と、不吉なものとする複数の迷信が存在しているようだ。
迷信は、迷信そのものよりも、その奥に真実や時代背景が隠されていることが多く、一見ドキッとするような迷信こそ、もう一歩踏み込んで覗いてみると思わぬ話を見聞きできるようにも思う。
アスファルトの上で、のびのびと過ごしている黒猫たちを眺めながら、そのようなことを思った昼下がりである。
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