クローゼットの中を片付けていたら、レトロなボタンが落ちていた。
素敵なボタンではあるのだけれど、そのボタンが付いていたであろうお洋服を思い出すことができず、とりあえずキャビネットの上に置いておくことにした。
結局、1か月ほど経ってもボタンが帰る先が見つかる気配はなく、ボタンが無くても支障はないと判断し処分する決心をした。
最期にもう一度だけ眺めておこうとボタンを手の平の上に乗せた。
四角いボタンの中央には小さくて四角い塊が埋め込まれているようなデザインで、釘抜紋(くぎぬきもん)のようにも見えた。
釘抜紋(くぎぬきもん)とは、四角の中央に小さな四角い穴が開いているデザインをした家紋のことで、古の頃に使われていた釘抜きに使用する台座がデザインのもとになっている。
釘抜きという言葉が「苦を抜く」「九城を抜く」に似ていることから、苦労を避けられるだとか、九つの城を攻略して戦に勝つことができるといったことを連想させるとして、縁起担ぎの家紋として武家の方々に好まれていたというのだ。
更に、この家紋。
とてもシンプルなデザインなので、戦場でも目立つし、現地で家紋を記す際にも簡単に書き記すことができると言う点も、武将や武士たちに好まれる理由のひとつだったという話もある。
単純なマークのようにも見える家紋だけれど、家紋に込められた意味をのぞき紐解いてみると、歴史やルーツなど興味深い何かしらに出会えるように思う。
そして、この釘抜紋(くぎぬきもん)の話に触れる際に、高確率で登場するのが冷奴である。
私たちはお豆腐のことを奴(やっこ)と呼ぶことがあるけれど、この語源は江戸時代まで遡る。
当時、武家で奉公していた方々は「奴(やっこ)、奴さん(やっこさん)」と呼ばれていたのだけれど、彼らが着物の上に羽織っていた半纏には、一番シンプルンなタイプの釘抜紋(くぎぬきもん)が付いていたという。
四角にカットしたお豆腐が、この白くて四角い釘抜紋(くぎぬきもん)に似ていることから、四角にカットすることを「奴に切る」と言うようになったそうだ。
そして、これがお豆腐のことを奴(やっこ)と呼ぶきっかけになったと言われている。
当時は、冷たいお豆腐のことを「冷奴」と呼び、湯豆腐などの温かいお豆腐のことを「湯奴」と呼んでいたらしいという話もよく見聞きするのだけれど、
私は「湯奴」という言葉を生まれてこの方使ったことがないので、時代を越えられたのは「冷奴」だけだったのかもしれない。
歴史ある企業の社章に釘抜紋(くぎぬきもん)が組み込まれていたり、そのまま使われていたりもするので、釘抜紋(くぎぬきもん)を目にする機会がありました折には、企業の歴史をのぞいてみるのも面白いのではないかと思います。
家紋には興味がないと言う方は、冷奴を召し上がる際に、今回のお話の何かしらをちらりと思い出しつつ、冷奴と薬味のハーモニーをご堪能いただけましたら幸いです。
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