長年愛用している革製のコースターがある。
母の友人に革細工を趣味にしている方がいるのだけれど、その方が、ようやく人様に贈れるくらいの腕になったからと言ってプレゼントしてくれたものだ。
そのコースターを母と半分ずつにしてから随分と年月が経ったけれど、タイムレスなデザインと丁寧な仕事が施されたそれは、古くなるどころか、使えば使うほど艶が増し、着々とセルフヴィンテージ化が進んでいる。
コースターケースも作って下さったのだけれど、それは母が持ち、私はお福分けしてもらったコースターを収納するためのケースを探すことにした。
なかなかしっくりくるものが見つからない時間が長かったものだから、ケースは無くてもいいやと諦めたときだった。
引越し先の近所にあった輸入雑貨を取り扱っている店で、コースターケースという名の商品を見つけたのだ。
正直、テイストは全く異なるものだったのだけれど、インドやパキスタンの工芸品だというそれの、手作りによるインパクトがコースターのインパクトとリンクし、購入することにした。
布が張られたケースに小さな鏡が刺繍で縫い留められており、更に鏡の周りを素敵な文様で覆っていく刺繍スタイルで、聞けば、インドやパキスタン辺りに伝わるミラー刺繍というものだという。
更に、砂漠地帯に住む人たちは、このミラー刺繍が施されたアイテムを愛用しているようなのだけれど、砂漠の中で自分が居ることを遠くの人に知らせる役割や、鏡の輝きによって邪悪なもの祓い除ける意味もあるのだとか。
それまでにも、小指の爪先ほどの鏡が埋め込まれたような刺繍細工を目にすることはあったけれど、それにミラー刺繍という名があることや役割や意味があることは、このときはじめて知ったことである。
刺繍といえば、日本にも刺し子と呼ばれる刺繍がある。
その始まりは、薄い布を何とか長持ちさせたい、保温性を高めたい、補強したいという生活に密着した理由からだと言われている。
単純に、薄い布を重ねて縫い合わせて厚みを出せば全ての問題がクリアになるけれど、先人たちは、そこに遊び心やおしゃれ心を添えるかのように、幾何学模様を縫い込んで仕上げたそうだ。
定番の柄と言われる文様は多々あるのだけれど、私が特に好んでいる柄は七宝繋ぎと呼ばれる文様。
七宝繋ぎのもとになる七宝文様は、同じ大きさの円を1/4ずつ重ねてできる花びらのようなもの。シンプルだけれども華やかな印象を抱かせる文様で、これを上下左右に規則正しく配置すると、七宝繋ぎと呼ばれる文様になる。
七宝文様、七宝繋ぎ文様は、日本の伝統文様のひとつで和物をはじめとする様々なものに、モダンデザインとして取り入れられている。
その理由は、デザインの完成度の高さはもちろん、繁栄やご縁に関する縁起物として愛されてきた歴史もあるように思う。
刺繍と一口に言っても、様々です。
刺繍が施されたものを目にする機会がありました折には、何という刺繍なのかのぞいてみますと、その刺繍から感じられる世界がグンと広がるように思います。
また、自分好みの刺繍を見つけて、その背景をのぞき見るのも一興かと。
刺繍を目にする機会がありました折には、今回のお話の何かしらをちらりと思い出していただけましたら幸いです。
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