どこで鳴いているのだろう。
開け放った窓の外から蝉の大合唱が耳に届く。
一匹、二匹が同時に鳴いたところで、ここまで複雑な音色には仕上がらないことを思うと、びっくりするような数の蝉がいて、あちらこちらで鳴いているのだろう。
つい、その数をイメージしてしまいそうになった頭をブンブンと横に振りながらベランダに出た。
この日は、ベランダに置いている木製ボックスの中身を確認する日。
随分と前に家具職人にお願いして立派なものを作っていただいたのだけれど、経年劣化と一度置いたらそれっきり、簡単には動かせない重量がネックになり、この夏、お払い箱になる。
お払い箱。
とても久しぶりに使った言葉である。
お役目を終えた存在に対して使われる言葉だけれど、使い方によってはネガティブな印象を与える言葉だ。
頭に浮かぶ機会はそれなりにあるのだけれど、不要になったものをゴミ箱か何かにポンッと放り込むような印象を拭い去ることができず、使うタイミングを逃すこともあったものだから、いつから使われていた言葉なのだろうかと調べたことがあった。
いつの時代から使われていたのか、ということについては分からなかったけれど、「お払い箱」のもとになったものは厄除け、災厄除けのお札を入れる「御祓箱(おはらいばこ)」だということが分かった。
伊勢神宮の厄除けのお札に「神宮大麻(じんぐうたいま/じんぐうおおぬさ)」というものがある。
様々な工程を経て、ありがたいものと化した杉の板が和紙で包まれているもので、厚みがあるお札だ。
この神宮大麻(じんぐうたいま/じんぐうおおぬさ)は、お祓いに使われるもので「御祓箱」と呼ばれる箱に入れて配られていたという。
そして、このお札とお札入れである御祓箱は、毎年新しいものが配られていたので、新しい物をお迎えする度に旧年の箱が不要になることから、
旧年の箱は処分されたり、他の不要品をとりあえず収納する箱として再利用されたりしていたことから、「お祓い」に「お払い」をリンクさせて、お役目を終えた存在に対して「お払い箱」と言うようになったようだ。
こうして、語源を辿ると根っからのネガティブな言葉でないことが分かるのだけれど、名は体を表すとはよく言ったもので、「払い」という文字の影響を少なからず受けているように思う。
それにしても、我が家の木製ボックスの重いこと。
引っ越し作業員の方々を泣かせたボックスだったけれど、それも今では4カ所での生活を共にした相棒とのちょっとした思い出である。
蝉の大合唱を聞きながら、お払い箱となるそれに最期のお手入れを施した日。
お払い箱という言葉を見聞きする機会がありました折には、今回のお話をちらりと思い出していただけましたら幸いです。
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