私のとても個人的な感覚なのだけれど、
ある日を境に使うことを少しばかり躊躇ってしまう言葉があるのです。
もちろん、全く使わないと言うわけではなく、
どうしても必要な表現なのであれば使います。
また、自分以外の誰かが使われているからと言って、
それについて特段思う訳でもない程度のことなのだけれども、
その言葉を目にしたり、耳にしたりする度に、
私はあるエピソードを思い出してしまうのです。
その言葉というのは、「おしどり夫婦」という言葉です。
この言葉の中の「おしどり」は、皆さんもご存知の通り鳥の名前です。
雄鳥と雌鳥がいつも一緒にいるので仲むつまじい夫婦を表す言葉として誕生し、
私たちの日常の中に極々自然にある言葉です。
この言葉が生まれた説のひとつには、このようなエピソードがあります。
昔、人間が「おしどり」の番いの1羽を捕らえたそうです。
残された1羽は、姿を消した自分の相手を思い続け、
待ち続けながら死んでしまったのだそうです。
思いながら死ぬ鳥、雌雄相愛しといった言葉が時代を経て語り継がれるうちに、
「おしどり」という名前になったのだとか。
少しジンと胸に響くエピソードです。
しかし、事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものです。
確かに「おしどり」の雄と雌の仲の良さは有名なようで、
おしどりの番いを観察してみると、
一見、寄り添いあっているように見えるのだとか。
だけれども実際には、雄が雌を取られないように一方的にくっつき、
周りを警戒しているのだそうです。
敵は他の雄だけではなくタカなどの鳥も含まれ、
命がけで自分のパートナーを守るのだそうです。
人間に置き換えて想像してみると、
その男らしさに胸を射抜かれる女性もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、この姿は期間限定のものだったのです。
雌が卵を産むと、卵を温めたり、雛鳥のお世話など、
育児ならぬ育雛が忙しくなりますが
雄は雌が卵を産んだことを確認すると雌の元から去ってしまうのです。
自然界の掟、この世に子孫を出来るだけ多く残す事が最優先事項なのでしょうね。
おしどりの雄は繁殖の度に、という事は毎年パートナーを変えます。
ですから同じパートナーと一生を歩むことはないのだそう。
鳥に詳しい方にこのようなお話をしていただいたとき、
私の中で「おしどり夫婦」という言葉のイメージが少しばかり形をかえました。
「おしどり夫婦ですね」と伝えたい時に限ってこのお話を思い出すため、
「素敵なご夫婦ですね」と言い換えるようになったような気がいたします。
もちろん、言葉と鳥の生態は別ですので、
「おしどり夫婦」という言葉は、素敵なご夫婦を表す言葉として使ったとしても
失礼にはならない言葉ですのでご安心くださいませ。
鳥の世界も、人間の世界も、言葉の世界もまた色々、ということで、
あなたの雑学ボックスに仲間入りさせていただけましたのなら幸いです。