鮮魚売り場を通ると、「魚介」や「魚貝」の文字が目に留まった。
ワタクシ過去に、どちらを使えば良いのだろうとキーボードを叩く指先が留まったことがある。
執筆作業をしていると時折起こることなのだけれど、意識をすればするほど、分かっていたはずの正解が分からなくなるのである。
文字を書くときもそうである。
普段であれば手がとまることがない簡単な文字だというのに、コンマ一秒迷っただけで、この文字にこの線は必要?不要?と迷うのである。
他にも、普段書かないような大きな文字を書いていると見え方が変わり、似たような迷いが生じたりもする。
慣れているものごとこそ慎重にとはよく言ったものである。
海の幸を表現する際には「魚貝」と「魚介」の2つが使われているのだけれど、「魚貝」と書くときには、見た通り「魚」や「貝」を指しており、「魚介」と書くときには、海の幸を丸ごと指している。
もともとは、魚介に使われている「介」の文字は武装した人の姿を表したものだったことから、甲冑を着ているような印象があるエビやカニを指していたそうなのだけれど、
ここから範囲が広がり、エビやカニだけでなくタコやイカといった殻を持たないものも含むようになり、海の幸を丸ごと指す言葉として使われるようになったようだ。
だから、見るからに魚だと分かるものと貝だと分かるものであれば「魚貝」の文字を。
海の幸を丸ごと表現したいときや色々と考える過程が煩わしいときなどは、全てを含む「魚介」の文字を選ぶと間違いがないようである。
確か、そのような使い分けだったと鮮魚の前で思い返していると、魚屋さん特有の声をした店員に「その辺りの魚も美味しいけれど、今日はカツオがおすすめだよ」と声をかけられた。
魚を選んでいたのではなく、その表記に思考を巡らせていたなどと言えるはずもなく、言われるがままカツオの前へ移動した。
あぁ、これは買って帰る流れに乗ってしまったな。
そのようなことも思いながらサク取りされたカツオをのぞきこんだ。
9月は、脂がのった戻りガツオが美味しい時季である。
夏の残り香に意識を向けていると気づきそびれてしまいそうだけれど、七十二候(しちじゅうにこう)という暦の中には、ちょっとした目印がある。
それは、9月17日辺りからの5日間ほどを七十二候(しちじゅうにこう)では、「玄鳥去(つばめさる)」と呼んでいるのだけれど、
この辺りから戻りガツオを目にする機会が増えることから、「ツバメが去るとカツオがやってくる」などと言う方もいらっしゃるのだ。
七十二候(しちじゅうにこう)を常に意識して過ごすわけではないけれど、ツバメを見かけなくなりツバメが南の地へ旅立ったようだと感じた折には「戻りガツオ」を是非。
その日も、美味しそうな戻りガツオの刺身とたたきがあった。
別のメニューの為にとカゴに入れていた薬味に視線を向けながら、この日は「たたき」に手を伸ばした。
これは以前、魚のプロに教えていただいた受け売りの知識だけれど、こうして既に出来上がっている「たたき」を自宅で出す際には、軽く塩を振り直して表面をさっと炙るか、火が中に通らない程度にフライパンで焼くかすると美味しさが増す。
私は、手軽な方法を選びがちなのでトングで掴んでサッと直火で炙ってしまうのだけれど、確かに香ばしさが復活して旨味が増すように思う。
お嫌いでなければ、戻りガツオの美味しさをお好きなスタイルで堪能しつつ、今回のお話の何かしらをちらりと思い出していただけましたら幸いです。
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