空
長年愛用しているペーパーナイフが2本ある。 そのうちの1本は、当時の仕事仲間が海外旅行のお土産に贈ってくれたものである。 とてもシンプルなデザインで握ったときの馴染みも良く、気付けば両の手の指の数では足りないほどの年月を共にしている。 確かあ…
エアコンの設定温度を一度上げた。 完全にオフにすることはできないのだけれど、秋が近付いてきているように感じた。 日常を見渡してみると、空が高く感じられる瞬間も増えつつあり、至る所に秋の気配があった。 その日は、お気に入りの大きなマグカップにな…
その日は、国際宇宙ステーション(ISS)“きぼう”を肉眼で観ることができるという日で、予定時刻の少し前からベランダにスタンバイしていた。 時間前なのに、大きめの光が通過していくものだから「え?もう?」と胸が高鳴ったけれど、よく見ると飛行機の翼に…
友人からカラフルなわらび餅の画像が届いた。 自宅にあったかき氷シロップに付けて着色したというそれは、ブルーハワイのシロップに漬けたものはキレイなブルーに、レモンシロップに漬けたものは目が覚めるようなイエローに染まっていた。 ガラスの器に盛ら…
今回は髪の毛が伸びるスピードが増しそうだ。 ヘアサロンへは、先日足を運んだばかりなのだけれど、手帳を捲りながらそのようなことを思った。 手帳と髪の毛の成長に何の関係が?と思われそうだけれど、眺めていたのは手帳に記されていた月の満ち欠け。 髪の…
この時季の満月を見上げると、「田毎の月(たごとのつき)」という言葉が思い浮かぶ。 田植え前の水が張られた田んぼ毎に、月が映り込む様子表した風流な言葉である。 この言葉が指す風景は、長野県にある姨捨山(おばすてやま)の麓で見ることができるという。 …
ガーデンテーブルで書き物をしていると、空に「天使のきざはし」が出ていることに気が付いた。 久しぶりに見る立派なそれに気持ちが弾み、作業の手を止めて立ち上がった。 「天使のきざはし」とは、太陽が雲に覆われているようなときに、雲の切れ間から光の…
昼間の暖かさが残っていたのか、その日の夜風は心地良いものに感じられた。 しっかりと防寒して見上げる冬の夜空も良いけれど、着の身着のままガーデンチェアに座って空を見上げることができるこれからの季節は、冬とは異なる開放感がいい。 ただ、自宅付近…
暖かい日、寒い日、パラパラと雨が降る日があったりもする、寒暖差激しいこの頃だけれども、ひと雨ごとに春が濃くなっているような気がして、季節が移り変わっていく過程はいいものだと思う。 その日は、立ち寄った書店で本を捲っていると「春雷(しゅんらい)…
ダイニングテーブルにPCと相棒である道具の諸々を豪快に広げ、作業を始めた。 時がどれくらい経ったのか見当すらつかなかったけれど、空腹感から、ふっと集中力が切れたところで顔を上げて窓の外へ視線を向けた。 清しい秋晴れのその日、空は優しいブルー…
秋晴れのその日、キーボードを叩く手を止めて気分転換に散歩に出かけた。 秋の匂いに混じっているお日様の匂いが心地よく、見上げた空は秋空にしてはシャープさを含んだ青色をしていて、雲の白が際立って見えた。 特段、用事があったわけではなかったため、…
その日は雨が静かに降っていた。 気圧の変化に敏感な私は、雨の日、頭をギューッと締め付けられるような感覚を覚える。 これは、雨を嫌う理由にもなり得るのだろうけれど、それでも私は、晴れの日と同じくらい雨の日も好きなのである。 薄暗くてヒンヤリとし…
ドイツ土産にいただいた雑誌を捲っていると、星占いのようなページがあった。 ドイツにも星占いがあるのかと思い覗き込んでみたけれど、そこはドイツ語。 内容をスペルから想像できるはずもなく、ページを囲んでいる素敵なデザインで目の保養をさせていただ…
この時季に降る天気雨が好きだ。 青空から無数の雨粒がザザザザーッと音を立てて落ちてくる。 太陽の光に照らされながら落ちてくるそれは、宝石の欠片みたいにキラキラとしていて、ちょっと嬉しい。 薄暗い景色の中で降りだした雨に遭遇した時には、雨宿りを…
クーラーで冷えきって凍ってしまいそうな体を程よく解凍させたくてベランダへ出た。 遅い時間だったけれど、昼間同様の暑さに眩暈を起こしそうになった。 体の冷たさは一瞬で消え、すぐに室内の冷気が恋しくなる中で聞こえてくるのは、往来する自動車の走行…
次第に音量が増していく小鳥のさえずりは、私が愛用している目覚ましアラーム音である。 無機質な音で目覚めるのは何だかちょっと……。 かといって、リズミカルなメロディーや穏やかすぎるメロディーも何だか違う。 そのようなことを思いながら幾つかのアラー…
今にも雨が降り出しそうなその日、私は傘を持たずに家を出た。 荷物を増やしたくないという思いと、傘の置き忘れを防ぎたい思いもあったけれど、一番は移動中に降られることは無いだろうという安易な考えである。 生温い風に顔を撫でられながら、幾つかの場…
ひと月ほど前のことだ。 友人が上弦の月とか下弦の月とかあるけれど、月がどうなったら上弦の月で、どうなれば下弦の月なの?と言った。 夜空を見上げて欠けている月を目にすることはあるけれど、判断が付きにくいと言うのだ。 確かに、このような向きで浮か…
ガーデンチェアでひと息ついていると、塀の上部にある何かに光が反射した。 立ち上がると、オレンジ色をした小さなボタンのよう見えたものだから、オレンジ色のボタンを無くした記憶を探しながら近づいて手を伸ばした。 あまりの小ささとオレンジ色の上にビ…
フラワーショップの前を通ると、ガーデンバケツに入れられた向日葵が目をひいた。 体感温度や装いからも感じることができる夏だけれど、この花を見なくては夏は始まらないと思っている私が居る。 向日葵は、太陽の方を向くことでも知られている花だけれど、…
開け放っていた窓から流れ込む風が心地良かったものだから、夕涼みでもと飲み物を手に外へ出た。 しかし、現実は昼間の暑さが辺りに漂い残っており、ガーデンチェアに座っていると、じんわりと汗が騒ぎ出しそうで、思わず手にしていたレモン水をゴクゴクと体…
西の空の奥が淡いピンク色に染まっていた。 太陽と月が同時に存在するこの時間帯の空は、その時季ならではの表情をしているように思う。 窓を開け放つと、昼間の気温が高かったからなのか、昼間のそれが辺りに漂っているような気がした。 少し目を離していた…
先日、それはそれは久しぶりに花粉光環(かふんこうかん)を目にした。 美しい花粉光環(かふんこうかん)を見つけてテンションが上がることに変わりはないのだけれど、数年前と変わってしまったのは、少しだけ身構えてしまうようになったことだ。 花粉光環(かふ…
アラームが鳴る1時間ほど前だっただろうか。 スッキリと目覚めたまでは良かったのだけれど、ブラインドの隙間から外をのぞいてみるも、外はまだ真っ暗。 やけに冷たくなっている顔を、両の掌で包み込みながらリビングへ向かった。 半ばオートマティックに、…
オレンジ色の太陽が西の空に沈んだ後のわずかな時間、 太陽の雫が夜に溶け出したかのようにも見える残照が、辺りの雲を茜色に染め上げる様は、 紅葉のそれに負けず劣らず力強くて情熱的だ。 このような色合いの空を見ることができるのは、日没直後の数十分ほ…
食事会の場所へ向かう途中、頭を空っぽにして歩いていると、 上弦を過ぎて膨らみ始めた月の近くに、 小さいけれど、肉眼でも確認できるほどの赤い光を放っている星を見つけた。火星だ。 火星は、地球との距離間によって、明るさが変化する惑星なのだけれど、…
ひと晩中、煌々と輝く街明かりに、お株を奪われている満月だけれども、 それでも、柔らかくも凛とした姿は、いつ見ても心を掴まれる美しさである。 秋風が心地よくなったこともあり、夜空を見上げながら歩く、気持ちの余裕も取り戻したように思う。 その日の…
明け方、今よりも少しだけ厚みがある掛け布団に変えても良さそうだと思いながら、 真夜中に冷えてしまった体を温めるようにして布団に包まり直した。 薄目を開けて時計を見ると、アラームが鳴る5分ほど前だった。 その日は、朝から雨がパラついており、耳を…
指先で摘まんだらムッチリとした弾力が感じられそうな、何かがパンパンに詰まっていそうな入道雲を見なくなった変わりに、 晴れた日の空には綿菓子を摘まみ取って空に浮かべたような綿雲の姿を見かける機会が増えたように思う。 私は、入道雲や綿雲といった…
久しぶりに夜空を見上げた。 満月の夜でもないのだけれど、街灯りに照らされていることが当たり前になった街中では、瞬く星を見つけることが難しい。 ぐっと押し迫られるような、夜空から落ちてくるような、そのような気分で最後に星を観たのはいつだったか…