こころ
スイカが並んでいた記憶が消えぬうちに、陳列棚の上には数種類の梨が並べられていた。 夏のフルーツから秋のフルーツへと変わると、いよいよ秋だなと思う。 夏を苦手としている私にとって秋の到来は待ち侘びていたものなのだけれど、去り行く夏を見送るのは…
数カ月ぶりに連絡を取り合った友人たちがいるのだけれど、皆が示し合わせたかのように「最近、モチベーションが上がらない」と言った。 モチベーションを保つということは思う以上に難しく、なかなか上がらないそれと向き合っているときの、八方塞がりのよう…
手帳に印字してある七十二候は、春の兆しに誘われて草木が芽吹き始める頃を知らせる「草木萌動 (そうもくめばえいずる)」の時期に入っていた。 もうしばらくの間、地上にいる私たちはアウターを完全には手放せないように思うけれど、地中では既に気温が上が…
途切れ途切れに聞こえてきた会話は、何かを失敗してしまい「反省している」という内容のものだった。 内容は分からなかったけれど、深く反省していることが伝わってくるような声の表情をしていた。 何を思うでも感じるでもなく、すぐに手元のスマートフォン…
今月に入ってから、涙活(るいかつ)という言葉を聞く機会が多い。 既に世の中に定着している言葉なので、今更ではあるのだけれど、涙活(るいかつ)とは、小説や漫画、映画などを読んだり観たりすることで涙を流すこと。 涙の研究は今も至る所で続けられている…
出かけた先で予想していなかった量の荷物が増え、両手が塞がってしまった。 何とか一つにまとめられないだろうかと、頭の中でテトリスのような思考を巡らせながらベンチを探した。 運よく、人通りが少ない場所に設置されたベンチを発見し、そのベンチで手荷…
旅先で立ち寄ったお寺で素敵な法話を耳にすることがある。 法話とは、仏教に携わっている僧侶の方々が、仏教の教えに基づいた話を分かりやすく説き聞かせること。 このような説明をしてしまうと堅苦しさを感じてしまうのだけれども、 聞くところによると、予…
いつもの自分が選ばないもの、これまでの自分だったら選ばなかったものを選んでみた。 嫌いじゃないけれど私らしくない、そのような感じで選択肢から外していたもの。 だけれども、本当は密かに気になっていて選択肢の枠外にそっと置いておき、時々眺めてい…
その女性は、駅のホームで電話をしていた。 淡い色をした夕焼け空を思い出させるような、優しい色をしたストールがお似合いだった。 女性を観察していたという訳ではないのだけれど、視線の先に立っていらしたものだから、 しばらくの間は、視界に溶け込んだ…
先日、とある劇場の前を通りかかると、素敵なお着物をまとった女性が立っていた。 着慣れていることが遠目からでもすぐに分かるような出で立ちだったこともあり、視線が自然と女性に引き寄せられた。 シンプルでありながら、帯締めや帯揚げなどの色使いに上…
駅構内で待ち合わせをしていたときのことだ。 コインロッカー前で地図を広げ、行き先を確認している小さな子ども連れのご家族がいた。 しばらくすると、幼稚園児くらいの子どもが手足をバタバタさせたり、地団太を踏んだりしながら、「嫌だ、嫌だ」と駄々を…
赤い口紅に、漆黒にゴールドカラーのローヒールが印象的なご婦人が、目の前を颯爽と横切った。 その、年齢を感じさせない装いと歩き姿に、名前は忘れてしまたけれど、誰かが残した言葉を思い出した。 『人は、歳を重ねただけでは老いない。理想を失うときに…
ひとりで道を歩いていたら、ある飲食店の貼り紙が目に飛び込んできたのです。 思わず「ふふっ」と噴き出してしまったのですが、そのタイミングですれ違った女性の顔には、「この人、怪しい!?」と書いてありました。 そのことに運悪く気付き、恥ずかしさで…
指先で摘まんだらムッチリとした弾力が感じられそうな、何かがパンパンに詰まっていそうな入道雲を見なくなった変わりに、 晴れた日の空には綿菓子を摘まみ取って空に浮かべたような綿雲の姿を見かける機会が増えたように思う。 私は、入道雲や綿雲といった…
PC画面との睨めっこが続いていたからか、それとも友人と久しぶりに有意義な会話を交わすことができたからか、 その日の夜は、神経が高ぶり、研ぎ澄まされ、眠れぬ夜となった。 スマートフォンをのぞきこむ気分にはなれなかったため、 年に1度、手に取るか…
飲食店で突然、店員に向かって「何もかもが遅い」と大声をあげた方がいた。 その日はとても暑かった上に、待ち時間も少々長めだったこともあり、 大声をあげた方も、自分で把握している以上に、疲れてしまっていたのかもしれない。 ただ、その大声によって一…
寄り道をしすぎてしまい、焦る気持ちが顔を覗かせ始めた頃に駅に到着した。 改札へ向かうため、急ぎ足でエスカレーターへと向かった。 すると、母親に手を繋がれた男の子がエスカレーターの横に立ち、ひとりひとりに「どうぞ」、「どうぞ」と声をかけていた…
ある晴れた日の午前中の出来事だ。 不意に聞こえてきたのは「ナイス、ナイス」という言葉。 誰の声?そう思って、恐る恐るクセのある甲高い声を辿った。 念のため各部屋をのぞき、最後に辿り着いたのはリビングだった。 室内からではないことに胸を撫でおろ…
お気に入りの楽曲を見つけるとエンドレスで聴いてしまう癖がある。 その自分の癖が発動する度に、こんなにも聴き続けて、よくもまぁ飽きないものだと、自分に少しばかり呆れもする。 しかし、呆れつつも、そのような楽曲を生み出した作り手のエネルギーや込…
真っ白な空から落ちてくる、押し寄せる夏に待ったをかけるような雨を眺めながら、 今年の、少し生ぬるい梅雨の匂いを吸い込んだ。 テーブルの上で震えたスマートフォンを覘くと、 遠方に住む友人が、「そろそろ送ってもいい頃かと思って」というメッセージと…
本当にしたいことをしようと思う。 そう言って、長年勤めていた職場と安定した職から離れ、 自分の特性を生かすことができる新しい場所で奮闘中の友人がいる。 その友人が、「自分に、こんなにも承認欲求があったなんて初めて知った」と言った。 そして、「…
人との出会いが交差し、ワクワクとドキドキと緊張が入り乱れる4月は、 人間関係に関する思いを耳にする機会が増えるように思う。 きっと、多くの方が大なり小なり抱いている思いだ。 ワクワクとドキドキと緊張が入り乱れるような状況に置かれていない方であ…
最近、知人とのやり取りの中で知った「月楽族」という言葉がある。 初めて触れるその言葉、文字から想像するに、天体の中でも特に月に恋して、月を楽しむひとたちのことだろうか。 そう感じた私は、そう尋ねてみた。 すると、「違う、違う。全然違う。」そう…
春分の日、彼岸の中日も過ぎ、昼間が少しずつ長くなり始め、寒さも和らぎ始めるこの頃。 そろそろ桜の開花情報も耳に届くのかしら、と思いながら 冬の雨とは異なる、温かみを帯びた優しい春の雨をリビングから眺めた。 このような時季に降る雨のことを「養花…
気に入って購入したスマートフォンケースが豪快に破損した。 使い始めて1週間といったところだろうか。 出先での破損は、私のテンションを容赦なく下げた。 ホームで電車を待ちながらバッグの中をチラチラと覗く自分に、 「子どもじゃあるまいし、たかがス…
友人からメールが届いたメールに、新たな扉を押し開けようとしていることが綴られていた。 何かを始めるのに早いも遅いもなく、 はじめよう、こうしよう、こうしたい、そう思った時がタイミング、そう思う。 もちろん、「どうしようかしら」と迷うこともある…
今年はすっかり出すのが遅くなってしまった、と思いながら、 随分と古くなってきた箱の中から、お気に入りのウサギのひな人形を取り出した。 私は“ひな人形”というものに興味がない子どもだった。 祖父母や両親が贈ろうとしてくれている好意は頑なに拒否し続…
今年は珍しく初夢を楽しみにしていたのですが、 朝起きて覚えていたのは、 見ず知らずの人が目の前でフリスクをぶちまけ、それを一緒に拾う夢でございました。 その散らばったフリスクは床一面をビッシリと覆ってしまえるほど大量で、 拾っても、拾っても床…
あ、もう夕方。 射し込む陽射しの色に誘われるようにして時計を見た。 時計の針は午後3時を回ったばかりで、夕方と呼ぶにはまだ早い時間だった。 「どう見たって夕方の陽射しだと思ったのに。」 季節に、してやられたような……、そのような気分を紛らわすか…
雑貨店を覗いたら、空間がクリスマスオーナメントでキラキラと華やいでいた。 可愛い!素敵!きれい!おしゃれ!面白い!これはちょっと無いな……と、 自由気ままに感じたことを心の中で解き放った。 一生お付き合いできるくらい気に入るクリスマスツリーと出…